第48話

 ――夕暮れの一年三組の教室。


 小林こばやしこえ喜屋武きゃん彩芽あやめ、二人の怪物が向かい合って相対している。


「それでは声ちゃん先輩、敗戦の弁でも語って貰いましょうか」


「……負けた側が語ることなど何一つとしてないよ」

 小林はそう言って、小さく首を振る。


「でもまァ実際、シロちゃん先輩とふみ香ちゃんがあそこまで頑張るとは思ってなかったけどね~」


「そうか? 私はあの二人なら事件の謎を各個撃破できると踏んでいたがな。今回私があの二人に負けた敗因は、事件発生場所だ。体育館の事件を解決して非常階段へ向かったら、既に白旗が解決した後だった。あれで大幅にタイムロスしてしまった」


「それは残念でした。それより、僕の考えたトリックどうだった? 声ちゃん先輩、楽しんでくれました?」


「……ああ、そうだな。お前との知恵比べは実に楽しかったよ。それだけに、もう戦えないことが残念だ」


「…………は? 何言っちゃってんの? 声ちゃん先輩は僕がトリックを考えつく限り、卒業するまでこの学園で起こる殺人事件の謎を解き続けるんだよ。何度トリックを破られようと、僕は何度でも立ちはだかる。また面白いトリックを思い付いたら、悪いけど遊んで貰うからね」


「残念だが、もうお前にそれをやれるだけの力は残されていない。喜屋武、お前は白旗しらはたに敗北したんだよ」


「……さっきから全然言ってる意味がわかんないんだけど。シロちゃん先輩に負けたのは声ちゃん先輩でしょう? 僕はトリックを暴かれても痛くも痒くもない」


「ああ、これまでは確かにそうだったんだろうな。だが、もう誰もお前の考えたトリックに乗る者など現れない。もうお前にそれだけの価値はない」


「……どういうこと?」


「もしかしてお前、うちの学校で殺人事件が多いのは自分がトリックを授けたからだとか思ってないか? まさかこれらの事件が、全部自分の所為で起きたとでも勘違いしてないか?」


「……いやいや、実際全部僕が考えた事件なんだけど?」


「喜屋武、お前は犯人たちから利用されていたに過ぎない。お前がやったことは事件を少しややこしくしただけで、この学校で起きた出来事は全て起こるべくして起きたことなのだ」


「……僕が利用されていただけ!?」


「そうだ。犯人たちがお前の計画に乗ったのは、お前の考えたトリックを使えば、殺人を犯しても罪に問われないと踏んだからだ。或いは、完全犯罪を成功させる確率を少しでも上げる為だ。殺人の衝動は最初から犯人の中でくすぶっていたのであって、お前の所為で殺人事件が増えたわけではない」


「……それなら僕だって、僕の考えたトリックを使わせる為に犯人たちを利用してやったんだ!!」


「そうだな。お前たちはお互いを利用し合う関係だった。しかし、これから殺人を犯す人間にとって、お前はもう利用価値のない人間に成り下がったんだよ。白旗誠士郎に敗北したことでな。私に連戦連敗だった白旗にまでトリックを見破られたのだから、お前が無傷で済む筈がないではないか」


「そんな……。それじゃあ声ちゃん先輩は僕を潰す為にわざとシロちゃん先輩に負けたってこと?」


「ふふ、黒幕気取りのお前が悔しがる顔をどうしても見てみたくなってな。白旗が私に対抗してくる状況を利用させて貰った。知らなかったか? 私は性格が悪いんだ」

 小林はそう言って、凶悪な笑みを浮かべる。


「…………」


「どのみち、お前は私の前に姿を現した時点で、遅かれ早かれ立ち行かなくなる運命だったのだよ」

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