第47話

「きゃああああああああああああああああああああああああああああッ!?」


 ふみは手に持っていた生首を思わず床に落としてしまう。


 ――少女の生首。


 間違いなく、古川ふるかわ栞菜かんなのものだろう。香水の甘い香りは、死体から放たれる腐臭を誤魔化す為に、犯人によって振りかけられていたのだ。


 ――本棚の中に古川の首が隠されていた。

 ――その事実から推理できること。


 昨日、磯貝が見た古川栞菜は幽霊などではなかった。

 古川が図書室から忽然と消えたのは、首から下は図書室の中に存在しなかったから。

 おそらく首から下は空気を入れると膨らむ人形で、制服を着せることで体がないことを隠していたのだろう。


「……あーあ、とうとう見つかっちゃったかあー」


 ふみ香が驚いて振り返ると、髪を後ろでシニヨンにした、二十代前半の眼鏡の女性が立っていた。


 ――司書の青砥あおと佳奈かなだ。


「……貴女がやったんですか? な、何でこんなこと?」


「このトリックはアリバイ工作の為のアイデアなんだけどさ、ついついやり過ぎちゃったんだよねー。冬場だから死臭は目立ちにくいし、栞菜のファンたちは話しかけるどころか栞菜に近付きもしない。だから栞菜の首と両手だけ置いておいて、体はゴム風船で作ってやるだけで、まだ栞菜が生きているみたいに思えてきちゃって。何時までもこんなことは続けられないってわかってはいたんだけど、ついやめられなくてね」


「……じ、自分で殺しておいて」


 青砥はスタンガンを握ってゆっくりとふみ香に近づいてくる。


「……嫌ッ!! 来ないで!!」


「うーん、君も中々可愛いねー。殺すのはちょっと勿体ないけど、秘密を知られたからには生かしてはおけないんだ。ごめんねー」


 ――青白い火花が目の前に迫ってきている。


「……ぐッ!!」


 ふみ香は恐怖のあまり目を閉じて本棚の陰に蹲った。


 ――その瞬間とき


「俺のヘイスティングスに何さらすんじゃ、このボケナスがァ!!」


「…………ッ!?」


 ふみ香がおそるおそる目を開けると、白旗しらはた誠士郎せいしろうの後ろ回し蹴りが青砥の顔面を捕らえるところだった。

 白旗の足の側面が、青砥の眼鏡を粉々に叩き割る。


「……かはッ!?」


 青砥佳奈は盛大に鼻血を噴出しながら仰向けに倒れる。


 ――一撃KO。

 ――相手が女でも情け容赦ない。


「おい、大丈夫か、美里みさと?」


「……白旗先輩!! 助けに来てくれたんですねッ!!」


「無理すんな言うたろ、アホ」

 白旗がふみ香の額にデコピンする。


「……痛ッ。って言うか、白旗先輩ってこんなに強かったんですね」


「何を当たり前のこと言うてんねん。推理で犯人追い詰める探偵が、犯人より弱かったら意味ないやろが。……って言うか俺、犯人してもたんやけど、これってどういう扱いになるん?」


「……うーん。じゃあこの勝負、白旗先輩の勝ちということで!!」

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