第43話

隅田すみだを殺した犯人は志摩しま、お前やッ!!」


 白旗しらはたが白いカチューシャの三年生、志摩に人差し指を突き付ける。


「……ですから、志摩先輩にはアリバイがあるんですって」


「志摩さんが犯人なわけねーだろ、バーカ」


「…………」


 小野寺おのでら秋月あきづきが白旗に反論する中、当の志摩は静かに微笑んでいるだけだ。


「……ふん、自分のトリックに余程自信があるみたいやが、既にお前のアリバイトリックは看破した。あ、そういやこれはお前のやのうて喜屋武きゃんが考えたアイデアやったか?」


「……よく喋る探偵だこと。それで時限装置は見つかった?」


「ああ。


 白旗が口角を上げると、対照的に志摩の顔から笑みが消えた。


「大昔に流行はやったスリンキーっちゅうバネのオモチャ知っとるやろ? ほら、階段を独りでに降りていくアレやアレ。このバネのオモチャは両端の高さが水平のときは動かない。けど、階段のような段差のあるところから突き落とすと、水平になろうとする力と押されたときの前方への推進力で、階段を一段ずつゆっくり降りていくわけや。お前はアレを使って隅田の体に火を付けた」


「……非常階段にそんなバネのオモチャがあったのかよ?」


「ちゃあんとあったよ。ドロドロに溶けたプラスチックのバネの残骸が」


「……それで、どうやって被害者を焼死させたってのよ?」

 志摩は額に張りついた前髪を払いながら白旗を睨んでいる。


「もしも、階段からゆっくり降りてくるバネのオモチャが電気を帯びとったらとったらどうや? お前はスリンキーに渇いた布なんかを擦りつけて、静電気を発生させた。この冬の時期や。空気が乾燥しとるし、静電気はすぐに溜まる筈や。そしてスリンキーが階段を降りた先にガソリン塗れの気絶した隅田を配置しておけば、静電気の火花が引火して時限殺人の完成や」


「…………」

 志摩は顔面蒼白で、ペタンと床に尻餅をつく。


「……志摩先輩?」

「……志摩さん、嘘だよな?」


「……隅田剣山けんざんは最低の男だった。私に振られたのを根に持って妹に近寄り、酷い振り方をして妹を深く傷つけた。あの男は死ぬべきだった。この方法で殺せば、誰も私を裁くことができない。その筈だったのに……」


「それはスマンかったなァ。俺も自分で自分の才能が怖ろしいで」


小林こばやしこえに負けるのなら兎も角、こんな二流のヘボ探偵相手に負けるなんて……」


 白旗はそこでムッとしたように口元を歪める。


「……ふん、他人のふんどしで相撲とるような奴に二流やとか言われたないなァ。そういや自己紹介がまだやったな。小林声の宿命のライヴァル、浪速なにわのエルキュール・ポアロとはこの俺、白旗誠士郎せいしろうのことや!! よう覚えとき!!」

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