第42話

「犯人は、この中におる!!」


 白旗しらはたは西校舎三階にある折り紙部の部室に入るや否や、勢いよくそう叫んだ。


「…………?」


 部室の中にいた三人の女子生徒は、口をポカンと開けて不思議そうに白旗を見ている。


「犯人って何の話?」

 頭に白いカチューシャを付けた、長い黒髪の三年生が質問する。


「おいおい、非常階段で殺人事件があったんを知らないとは言わせへんで」


「知らねーよ、実際」

 金髪のショートヘアに鼻ピアスの二年生が吐き捨てるように言う。


「……私たち、非常ベルが鳴ってからこの教室から一歩も出てませんから」

 前髪で片目が隠れている一年生がそう釈明する。


「そもそもよ、何でウチらの中に犯人がいるって考えるんだよ?」


「事件発生当時、西校舎には一階に部室がある写真部と、三階に部室がある折り紙部の生徒しかおらんかったことが確定しとんねん」


「だったら犯人は写真部の連中かもしれねーじゃんかよ」


「残念やがそれはないな。写真部の三人にはアリバイがある」


「でしたら私たちにもアリバイがあります」

 とは、片目が隠れた一年。


「私と秋月あきづき先輩は6時半からここを出ていませんし、志摩しま先輩だって非常ベルが鳴る五分前には部室に来ていました」


小野寺おのでらの言う通りだ。引っ込めよ、ヘボ探偵」

 金髪ショートの二年が勝ち誇ったようにふんと鼻を鳴らす。どうやらこっちが秋月で、黒髪カチューシャの三年が志摩、片目隠れの一年が小野寺らしい。


「…………」


 死体があったのは非常階段の一階と二階の間だった。そして、非常階段は人が上り下りすると高い音がするが、一階にいた写真部の話では音は一切聞こえなかった。

 三年の志摩が足音を立てずにゆっくり階段を降りて隅田すみだに火を付けたとして、またゆっくり階段を上がって部室に戻るまでに二分はかかる。燃え方にもよるが、その二分の間に各階の非常階段の入り口にある火災報知器が作動する可能性もあるし、ましてや七分(二分+五分)もの間非常ベルが鳴らなかったというのは考えがたい。


「……となると、何らかのトリックが使われとる可能性もあるな。時限装置のようなもので細工して……」


「もしも、そんなものがあったとしたらね」

 志摩は穏やかな笑みを浮かべて白旗を見ている。


「…………」


 白旗の心証としては、この志摩という女はかなり怪しい。他の容疑者たちのアリバイと比べて、志摩のアリバイは少し弱いように思える。

 だが、どうやって隅田を殺したのかがわからない。たとえば現場に蝋燭ろうそくなんかが残っていれば、それをタイマーにして七分という時間を稼ぐことができる。

 しかし、死体の傍らに残されていたのは蝋燭ではなく、ただの溶けたプラスチックの燃えカスだった。あんなものでは七分間もの時間を稼ぐことはできないだろう。


「おい、何時までそこに突っ立ってるつもりだよ? 用が済んだならとっとと出て行け」

 秋月が鋭く白旗を睨んでいる。


「……やかましい。今、考えを纏めとる最中じゃ!!」


(……嘘だ。本当は考えなんて何もない。ただの強がり、はったりや)


(せやけど、何か方法がある筈や。俺はこれまで逆境のときにこそ、その真価を発揮してきた。逆境をバネに、事件を解決してきたやないか)


(…………ん!?)


(…………?)


 そこで白旗はニタリと笑う。


「……この事件、もろたわ!!」

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