非常階段黒焦げ殺人事件

第41話

 白旗しらはた誠士郎せいしろうは非常階段で黒焦げになった死体を、鼻を摘まみながらまじまじと眺めていた。

 辺りにはガソリンと肉が焦げる匂いが立ち込めている。


「……何やこれは?」


 白旗は隅田すみだ剣山けんざんの死体の傍らに、何か落ちていることに気が付いた。小さな燃えカスで、プラスチックが溶けた跡のようだ。


 白旗は念の為、スマホで燃えカスの写真も撮っておく。現段階でこれが何なのかわかっていないが、事件と関係がないとは言い切れない。


「……ま、現場検証はこんなもんでええやろ。ところで、そこのお前」


 白旗に呼ばれて野次馬の中にいた、さっき話を聞いていた銀縁眼鏡の男子生徒は目をぱちくりさせる。


「……何だ?」


「お前、確か写真部やと言うとったな。他の部員はどこにおる?」


「全員ここにいる。非常ベルが鳴って、三人全員がカメラを握ってここへ来たところだ」


 眼鏡の背後にいる、背の高い男子と太っている男子がそうなのだろう。


「ベルが鳴る前、お前ら一階の部室におったんか?」


「ああ、撮った写真を現像していたからな。一時間は部室に籠もっていたと思う」


「その間、席を立った奴は?」


「いや、誰もいないな」


「……ほなら、写真部に隅田を殺すんは無理か」

 白旗は逆立った髪を弄りながら呟いた。


「何だよ、俺たちを疑ってるのか?」


「全てを疑ってかかるんが捜査の鉄則や。最後に一個訊かせてくれ。お前らが部室にいた間、非常階段から足音はせェへんかったんやな?」


「しなかったよ。さっきも話したが、うちの部室は非常階段から近いし、上り下りするとカンカン高い音が出るからな。そりゃ忍び足でゆっくり歩かれたら気づけないだろうが」


「参考になったわ」

 白旗は眼鏡の男子生徒に礼を言うと、くるりときびすを返した。


「……おい、待て。どこに行くんだ?」


「犯人を直接叩きに行く」


「……え!? まさかもう犯人がわかったのか!?」


「んなもん知るかいな。出たとこ勝負なんが俺の流儀や」

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