第40話

「犯人は最後にこの体育館の鍵を閉めた人物です」


 小林こばやしこえは不敵な笑みを浮かべてそう言った。


 それを聞いた岡村おかむらはポカンと口を開けている。


「……いや、でもさっき死亡推定時刻は午前4時から6時だって。記録を調べればハッキリしますけど、職員が全員校内から退出したのはどんなに遅くても午後10時以前ですよ? 体育館の鍵を閉めたあと、犯人はどうやって被害者を殺害するんですか?」


「何も矛盾はありません。高千穂たかちほ優菜ゆうなは誰もいない、密室の体育館の中で殺されたのですから」


「……どういうことです?」


「氷ですよ。

 小林はしたり顔で岡村に説明する。


「体育館のライトが付いたままだったのは、天井の氷を溶かす熱を生み出す為です。この季節、夜から早朝にかけて気温は氷点下に達します。それだと氷が溶けることはありませんから、天井に仕掛けた槍を落下させるにはどうしても熱が必要だった。あとは薬で眠らせた被害者を位置エネルギーを使って、槍で串刺しにしたのです。体育館の天井の高さは12,5メートル。その高さから落とされれば、僅か1キロに満たない槍でも充分に人を殺害できる威力になる」


「……大変だ。そうとわかれば、早く犯人を捕まえないと!!」


「そう慌てることもないでしょう。犯人がこんな面倒な仕掛けを用意したのは、偽のアリバイを作る為。つまり、犯人は今ここから遠く離れた場所にいる筈です。逆に言えば、犯人はアリバイが破られたことなど知るよしもない。岡村さん、警察がここに到着したら今私が話したことを説明してください。後のことはお願いします」


「……え? 君はどこへ行くつもりです?」


「解決しなければならない問題が、あと二つ程あるので。これにて失礼」


 小林声はペコリと頭を下げると、体育館を後にした。

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