体育館串刺し殺人事件

第39話

 小林こばやしこえは体育館に到着するなり、すぐさま死体に駆け寄った。


 体育館の中央に大の字になって倒れているのは、バレー部員の高千穂たかちほ優菜ゆうな。ユニフォームを着た高千穂は、腹部を長さ2,5メートルの槍で貫かれて絶命していた。

 槍は陸上競技で男子が使うもので、その先端は高千穂の胴体を貫通して、体育館の床板にまで達していた。

 死体の表情は苦痛で歪んでおり、腹を貫かれてからも高千穂が暫く生きていたことを物語っている。


「……死亡推定時刻は午前4時から6時といったところか」

 小林は死体の傍でそう呟くと、徐に天井を見上げる。天井にはライトが煌々こうこうと輝いていて、小林は思わず顔をしかめた。


「……あのゥ」


 その様子を作業着を着た老人が訝しげに見ていた。


「貴方が事件を警察に知らせた岡村おかむら剛人たけとさんですね?」


「……はァ、そうですが」


「私は鏑木かぶらき探偵事務所の小林です。警察から現場の保存を依頼されてここへ参りました。ところで、このライトは貴方がつけたのですか?」


「……いや、私が来たときにはもうこの状態でしたな。誰もいない筈なのに電気がついていたので、妙だと思い、鍵を持ってきて扉を開けたらこの有様で」


「貴方が確認に来たとき、体育館は鍵がかけられていた状態だったのですね?」


「ええ、それで一度職員室へ鍵を取りに行くハメになりましたから」


「…………」


 小林は改めて死体を観察している。

 小林が注目しているのは、槍の柄の部分だ。艶々と光って見えるのは、水が伝った跡のようだ。


「岡村さんは毎朝この時間に見回りに来るのですか?」


「厳密に決まっているわけではありませんが、大体は7時前後でしょうか」


「……なるほど。たった今、犯人がわかりました」

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