第36話

 ――12月某日。午前7時。


 誰もいない体育館に、女子生徒の死体が仰向けに倒れていた。


 死亡していたのは女子バレー部二年の高千穂たかちほ優菜ゆうな。外から体育館の明かりがついていることに気が付いた用務員の岡村おかむら剛人たけとが、鍵を開けて中を確認したことで事件が発覚する。


 高千穂優菜の死体は体育館の中央に大の字で倒れており、ちょうどへその辺りをやりで貫通された状態だった。兇器きょうきに使われた槍は、陸上競技で使用するもので、体育倉庫から一本盗まれていた。


 その日は女子バレー部の朝練は顧問の矢野やの晴臣はるおみの都合で中止になっており、体育館は本来は誰も使用していない筈だった。


     〇 〇 〇


 ――同日、同時刻。


 校庭の百葉箱の中に、人間の右手が手首で切断された状態で発見された。


 発見したのは気象学部三年の空閑くが美弥子みやこ。気象学部は決まって午前7時に百葉箱を見に行くことが日課になっていた。


 発見された右手には、手の甲の部分に火傷の跡があり、三年の古川ふるかわ栞菜かんなのものであることがすぐさま特定された。


 手首の切断面に生活反応はなく、古川は犯人に殺害された後、手首を切断されたものとみられている。


 古川栞菜の死亡推定時刻は手首の状態から死後、二日以上経過していると判断された。


     〇 〇 〇


 ――同日、同時刻。


 西校舎の非常階段の途中で、男子生徒の焼死体が発見される。


 黒焦げになって死んでいたのは一年の隅田すみだ剣山けんざんで、辺りにはガソリンの匂いが充満していた。


 事件発生当時付近に人影はなく、死体の傍らにはプラスチックが溶けたような燃えカスが残されていた。

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