第32話
「これはこれは、
――放課後の旧校舎前。
ふみ
「それはこちらの台詞だな、喜屋武彩芽。私と対決がしたくてわざわざ殺人事件まで起こした奴の顔がどんなものか見ておきたくてね」
小林は鋭い眼光で喜屋武を睨みつける。
「……あれ? もしかして声ちゃん先輩怒ってます? 僕、声ちゃん先輩に喜んで貰えると思って、とっておきの殺人事件を用意したのに~」
「いや、謎を解くことは私のライフワークであり、レゾンデートルでもある。そんな私が殺人犯に対して怒る筈もない」
小林と喜屋武は言葉を交わしながら、お互いの腹の中を探るように、刺すような視線を向け合っている。
ふみ香は、二人の間で見えない火花が飛び散っているのを感じていた。
「死体の瞬間移動の謎解きの前に、まずは手品のタネ明かしからだ。将棋部の部室で
「…………」
ふみ香はゴクリと唾を飲み込む。
瓶の中にあったのは本物の果実だった。何かトリックを使って瓶の口を潜らせる方法はない。
それこそ瞬間移動でもしない限り、あんなものを作り出すことはできない筈だ。
「瓶の口より大きな物体を瓶詰めしたもの、
「……発想を逆転させる?」
「ルービックキューブの瓶詰めのときはクラスメイトの目の前で実演して見せたのに、オレンジのときは最初から瓶詰めされていたものを見せたのは何故か? ルービックキューブは数秒で瓶の中に入れられるが、オレンジのときはそうもいかなかった。あれを作るには気の遠くなるような時間、何年もの歳月が必要なのだからな」
「……何年もの歳月!?」
「そう。大きく実ったオレンジを小さな瓶に入れたと考えるから不思議なのだ。逆に最初から瓶の中で育てられていたのだとわかれば、不思議はない」
「……なッ!?」
正にコペルニクス的転回だ。オレンジはまだ小さなうちに、瓶の中に入れられていた。
あれは喜屋武の瞬間移動能力を証明する為の、言わばデモンストレーションのようなものだ。オレンジの瓶詰めを作ること自体に意味はない。
それを何年もかけて作っていた?
――そんな馬鹿なことがあるか?
「たかだか余興の為にそこまではしない。普通はそう考える。それが思考の隙となり盲点となるわけだ。喜屋武、お前は超能力者ではない。ただの人殺しのペテン師だ」
「……言ってくれますね、声ちゃん先輩。そこまで言うなら、旧校舎の殺人を説明して欲しいものです」
「ふん、お前に言われるまでもない。この事件の謎、私が跡形もなく食らいつくしてやろう」
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