第31話

「せやから、何回も言うとるやないか!! 男子生徒の死体は一階の教室から、二階の生物室に一瞬のうちに移動しとったんやッ!!」


 ふみ白旗しらはたはパトカーの中で、鷲鼻の警部からしつこく何度も同じ質問をされていた。


「とは言っても、実際にそんなことが起こるわけがないだろう。何かの見間違いだったんじゃないのかね?」

 警部はそう言って何とか食い下がろうと、粘り強く白旗に尋ねる。


「……いえ、白旗先輩だけじゃなく、私も見ましたから。一階の教室には間違いなく死体がありました」


 旧校舎で殺されていたのは、映画部三年の千秋ちあき英寿ひでとしだった。千秋の死亡推定時刻は12時50分以降で、昼休み以降の足取りが掴めていないということだった。


「せや、俺らに旧校舎に来い言うたんは喜屋武きゃんやで!! 犯人はアイツなんやから、アイツから話聞けばええだけやないか!!」


 そうだった。今回の事件に関して、犯人だけはハッキリしている。

 喜屋武彩芽あやめは瞬間移動能力を使える殺し屋を自称していた。ふみ香や白旗から話を聞くよりも、喜屋武を取り調べした方が事件解決に繋がるのではないか?


「……実はそのことなんだがね」

 警部は渋面を作って言いにくそうに言った。


「喜屋武彩芽は瞬間移動能力で千秋の胸にナイフを移動させて殺害したと供述している。それでは警察としては喜屋武を逮捕することはできないんだ」


「はァ!? 自分が殺したって自供しとるのにか!?」


「ああ、現行の法律ではな。現実に実現不可能な方法で殺人をされては立件のしようがない。超能力による殺人は警察の管轄外なのだ」


「……ぐぬぬぬッ」

 白旗は歯噛みして悔しがる。


「そうや!! 喜屋武が瞬間移動能力を使える証拠があるんやったわ!! 逆にアイツが瞬間移動能力を使えることを立証できれば、喜屋武を捕まえることも可能やろ!!」

 白旗はそう叫ぶと、鞄の中をガサゴソとまさぐり始めた。


「……あれ? 妙やぞ!? 確かここに瓶詰めのオレンジをしまっとった筈やのに……」


「仮に喜屋武彩芽に物質を瞬間移動することができるなら、君が持っていた証拠品を消すこともできるのではないかね?」


「……あ」

 警部に突っ込まれて、白旗は大きく口を開けている。


「……ま、何にせよだ。警察としては死体が瞬間移動したなどという話は到底受け入れられない。喜屋武を捕らえるには瞬間移動のトリックを暴く必要がある」


     〇 〇 〇


 19時になってようやく警察から解放されたふみ香は、小林こばやしこえのスマホに電話してみることにする。


「……ふむ。中々面白そうな事件だ」

 事件の概要を聞いた小林の第一声は、そんな不謹慎なものだった。


「死体の瞬間移動。この謎を解かない限り、犯人を捕らえることはできないということか」


「……小林先輩ならもう謎は解けたんですよね?」


「さてね。だが、これは私への挑戦状だ。私が相手になってやるのが礼儀だろう。美里、明日の放課後に喜屋武を旧校舎へ連れてきてくれないか? そこで決着を付けよう」

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