第30話

「……し、死体やッ!!」


 白旗しらはたは教室のドアを懸命に開けようと試みる。しかし、ドアには鍵がかけられているらしく、どんなに引いても少しも動きそうな気配はない。


「しゃーない、こうなったら破るしかないな。美里みさと、お前は警察に連絡しといてくれ」


「……は、はい」


 ふみがスマホで警察に電話している間も、白旗がドアに何度も体当たりするドスンという音が何度も繰り返されていた。通話中にやられると、正直かなりうるさい。

 通報が終わった頃、さっきまでとは違う大きな音が旧校舎の中を響き渡る。とうとうドアが破られたのだ。


「……な、何やこれはァ!?」


 白旗の絶叫に不穏なものを感じたふみ香は、飛び込むように教室の中に足を踏み入れる。


「白旗先輩ッ!!」


 ――そこには、胸にナイフが突き刺さったが横たわっていた。

 ふみ香たちが見た男子生徒の死体はどこにもない。


「……これって!?」


「……まさか、俺たちが見た死体は瞬間移動でどっかに飛ばされて、代わりにこの人体模型がこの教室に飛ばされたっちゅうことなんか!?」


 白旗がそう考えるのも無理もない。

 さっきまであった死体が教室に入った途端、人形とすり替わっているなどという現象を他にどう説明すればいい?


 ――そして、問題は他にもある。


「……お、おい美里、この教室って」


「ええ。窓はクレセント錠で中から施錠されています。そしてドアも力尽くで破る以外に、中に入る方法はありませんでした」


 ――

 ――


「……情報を整理しよう。この教室は内側から鍵がかけられた密室で、ドア窓から中を覗いたときには確かに男子生徒の死体があった。けど、俺がドアを破って中に入ると、死体は人体模型とすり替わっとった」


「……あの、もし死体と人体模型が瞬間移動で入れ替わっているのだとしたら、死体は元々人体模型が置かれていた場所にあるのではないでしょうか?」

 ほんの思いつきではあったが、ふみ香は思い切って白旗に話してみる。


「……とてもやないが、信じられへん話やな。せやけど、今はこの人体模型くらいしか手掛かりがないんも事実や。美里、お前の推理に乗ったろうやないか。で、旧校舎の生物室はどこにあんねん?」


「今の校舎と同じなら、二階にあると思います」


「そうと決まれば、やることは二階の探索や。警察が来るまでに死体を発見できるんが理想やな」


 ふみ香と白旗は暗い階段を肩を寄せ合いながら上り、二階にあるであろう生物室を探していく。


 ――そして、男子生徒の死体は二階の生物室の中で発見された。

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