第29話

 翌日、ふみ白旗しらはたは放課後の旧校舎の前に来ていた。


 旧校舎は現在の校舎から雑木林を挟んだ500メートル離れた地点に、打ち捨てられたように建っていた。老朽化の為立ち入り禁止になっているが、取り壊すのにも費用がかかるということで先延ばしにされ続けているというのが現状だ。

 入り口は鍵が壊されており、誰でも出入りすることができる。


 この時期の放課後は既に空が薄暗くなっていて、壁に亀裂が入り、全体をつたに覆われた旧校舎は酷く不気味に見えた。


「……先輩、どうして小林こばやし先輩を連れてこなかったんですか?」


「別に教えんかったわけちゃうわ。急用ができたとか言って断られたんや」


 小林こえは放課後は探偵事務所でアルバイトをしている。学校で起こる事件ばかりにかまけてもいられないのだろう。


「ま、アイツがおらんでも俺がズバッと事件解決したるわ。安心せえ」


「……まだ事件が起きると決まったわけでもないですけどね」


 ふみ香は念の為、警察に喜屋武きゃんのことを話しておいた。しかし、まともに相手にされる筈もなく、何かあったら連絡しなさいと気休めを言われただけだった。


「ところで旧校舎に来いとは言われたが、どこに行けばええんや?」


「……さァ? 喜屋武さんは具体的な場所は言ってませんでしたからね」


「しゃーない、一階から順に見ていくしかないか」


 ふみ香と白旗は暗い廊下を懐中電灯で照らしながら、ゆっくりと進んでいく。

 聞こえるのはコツコツという二人の足音だけだ。


「……ちょっと先輩、あんまりこっちに来ないでくださいよ」


「……お、お前こそくっ付いてくんなや!!」


「…………」


 暗闇の中で無言で睨み合うふみ香と白旗。険悪なムードが二人の間を流れる。


 そのとき、ふみ香は教室の扉の窓が一瞬だけキラリと光ったことに気が付いた。


「……白旗先輩ッ!!」


「いや、さっきのは体育の授業で汗かいたから、あんまり近付いて欲しくなかったっちゅう意味であってやな……」


「そんなことより今、そこの扉の窓が一瞬光ったんですよ!!」


「何やて!?」


 白旗は弾かれたように駆け出すと、ふみ香が指差す扉の窓を覗き込んだ。ふみ香も遅れて白旗の後を追う。


 ――ドア窓から見た教室の中の光景。


 そこには胸にナイフが突き立てられた、血塗れの男子生徒の死体が横たわっていた。

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