第9話
通された部屋に入ると年配の男が窓際にある机の椅子に座っていた。
元冒険者だったのか顔に傷を持ち鋭い眼光とムキムキな身体が少し怖かった。
受付嬢にソファーへ促されステラと並んで座ると暖かい飲み物が出された。
そのタイミングで男はこちらに移動して来くると向かいにドカっと座わりギラッと目を光らせた。
「ひっ⁉︎」
ステラの悲鳴が微かに耳に入ると俺の袖をぎゅっと掴んで震えている。俺でも怖いのだからステラからすればもっとだろう。
「俺はここのギルド長をやっているゼンだ」
『エレナと言います』
「君がこれを売りたいというのは本当かね?」
ゼンの視線が机の上に向く、さっき受付嬢に渡した赤い宝石がキラリと光っていた。
『はい、そうですけど……』
「君はこれが何か知っているのか?」
ゼンの表情には少し戸惑いの色が見え、本当にいいのかと問いかけているように感じた。
『いえ、何か特別な物なのでしょうか?』
「これはマナの結晶石と呼ばれる物だ鑑定させてもらったが間違いない」
『マナの結晶石?』
「マナの結晶石にはその名の通りマナが凝縮されていて使うとマナの力が増幅したり体内のマナの回復が早くなる物で大変に貴重で高値で取り引きされてるんだよ」
(という事はこれはかなりのレア物なのかも!)
貴重、高価というゼンの言葉に期待が膨らむ。
『も、もし売るとどのくらいの値段になるんですか?』
「1000」
『1000ラナ?』
「違う1000万ラナだ」
それがどれだけの額なのか、一瞬凄いのか分からない為反応に困ったが唯一知っている宿屋一泊100ラナという価値を引き合いに頭では計算を始めていた。
(ええと……宿屋一泊100円として……マジか⁉︎ 一生宿屋で暮らせる額じゃないか⁉︎ 売ってもまだ他に3つあるし1個くらいいいよね?)
当分の活動資金が手に入ると思い喜んで頷いた。
『売ります!』
「本当にいいのか? まあ話を聞いてなお売りたいと言うなら止めはしないが……では額が額だからな少し時間がかかるぞ」
『はい、あとお願いがあるのですが』
「ん? なんだ?」
『この結晶石の出所をできれば僕からだと言わないで欲しいのですが』
できれば余計なトラブルは避けたい。
「確かに色々な面倒事に巻き込まれるかもしれないしな、売った者は何処かへ行ってしまったと言っておこう、受付した者にも話しておく」
『ありがとうございます』
顔に似合ずゼンがいい人で良かったと胸を撫で下ろした。
『後聞きたいのですがマナの結晶石の色で何か違いがあるのでしょうか?』
なんとなく気になっていた事を口にするとゼンは少し考えた後口を開いた。
「まずこの結晶石がどうやってできるのか気にならないかね? マナは人からしか生み出せないものだ」
(どうやって? マナ使いの人が水晶か何かにマナを込めたりして作るのかな?)
『マナを使って人工的に作られた物とか?』
「残念ながらハズレだ、それだったらこんなに価値が付かんだろ?」
(確かにそうだな……という事は自然に出来た物、化石みたいなことかな?)
「これは昔存在していたマナ使いそのものだよ、今は存在しないがその昔この大陸には大きな力を持ったマナ使いの一族がいたんだ」
(ちょっと話が長くなりそうだな)
既に隣でステラは眠そうに頭を上下にコクコクと揺らしている。
「その一族は人里離れた場所で生活していたがその力を恐れた者も多くいた特にカダル王国の人間だな。そしてある時その一族の村に魔物の群れが押し寄せるという事件が起きたんだ。それを好機と見たカダル王国は彼らを根絶やしにしようとした」
それを聞いた時違和感を感じた。
(何で人里離れた場所で起きた事を知っていたのかな? もしかしてその王国が村を常に見張ってたか、ちょっかいを出していたのかも)
「各地に逃げ延びた一族の者は王国の兵士から逃げ切れないと悟ると魔物になって戦ったそうだ。これはその魔物を倒した時に出る結晶石だ、一族の人間が魔物になる時に自らを結晶化するんだろう」
(じゃあ洞窟にいたのは元人間だったのか⁉︎ ユギルはその一族の人間なのかな? またなって言ってたし次に会った時に聞いてみよう)
「結晶石の色は元の人間のマナの量や強さで変わると言われているが数が出回っていないから分からないことも多いらしいな」
『よく分かりました、そんな歴史があったんですね』
「ところで君は冒険者にはならないのかね? 結晶石を手に入れる程の力だ、自信があるなら登録していくがいい」
『そうさせてもらいます』
「分からない事は受付嬢に聞いてくれ」
(冒険者かぁ、まあ登録しておいたほうが色々情報も集まりそうだし良さそうだ)
『あ! そうだ!』
隣りで眠ってしまったステラを抱き寄せた。
『この子の事なのですが、実は……』
ゼンに事情を説明した。
「その報告はこっちにもきている。襲われたのはバルト村だ。そうかその子は生き残りか」
『他にそこから逃げてきたという報告はないのですか?』
「まだ聞いてないな、報告を聞いたが他の生存者については厳しいだろうな……この街にはその子の様な孤児を預かる場所があるが」
ステラの安らかな寝顔を見るとそんな気にはなれなかった、ゼンに首を振って答えた。
『まだこの子の両親が死んでんいるか分かりませんし、それにしばらくそばに居たいんです』
「分かった、何か情報が入ったら提供しよう」
『お願いします』
話が終わるちょうどいいタイミングでガチャっとドアが開くと「準備が出来ました」と女性が袋がつまれた台を持って入るとすぐに「失礼します」と出ていった。
(すごい量だな……)
無意識に指輪に収納していくと後ろでゼンが唖然としていた表情で固まっていた。
(しまった……驚いてる……)
やってしまったと笑ってにごす事にした。
『はは、これはご内密にお願いします』
「君は一体何者だね? これでも俺はこの大陸のお偉い方とは面識があるんだが君の顔は見た事がない……もしかして他の大陸から来たのか?」
少し俺の正体が気になり出したゼンに焦る。
『ち、違いますよ! 辺境の村から来ててちょっと世間知らずなだけです』
かなり無理があると自分でも分かっていたがゼンはそれ以上突っ込んでこなかった。
「まあ余計な詮索はしないがあんまり面倒事に巻き込まれないように注意しろよ。と言っても今この街では君の話題で持ちきりだ。まさかその本人が目の前に現れると思ってなかったがな」
『え? どういう事ですか?』
「この街の人々反応を見なかったのか? 今この建物には君目当てで一般人まで入ってこようとして大騒ぎになっとるんだぞ」
(マジかよ……それを言われたらここから出たくないんだけど……)
「安心せい、とりあえず一般人は追い払ったからな」
(それを聞いて安心したよ……とりあえず宿屋へ直行だな)
はやく部屋を出ようと隣りで寝ていたステラをゆすって起こすとステラは目を擦って欠伸をした。
『ステラ待たせたね、行こうか』
「うん……」
エレナが冒険者ギルドでゼンと話している頃、街では事件があったかのような騒ぎになっていた。
「本当だってメチャクチャ綺麗なんだぞ!」
「本当かよお前女の趣味わるいからなぁー」
「じゃあ見てみろよ今冒険者ギルドにいるらしいぜ」
「なあ女神様のような綺麗な顔をした女の子が今冒険者ギルドにいるらしいぞ!」
「見た人によると誰でも見惚れるくらいの容姿だってさ!」
あちこちでそんな話がされ冒険者ギルドには人が集まってくる始末だった。
「あの! 冒険者以外の方は入って来ないで下さい!」
受付嬢を含め職員が動き回って事態の収拾に走り回っていた。
エレナの受付をした受付嬢はこの状況を見ながら机に座り肘をついていた。
(確かに可愛いし綺麗な顔してたわね。この私が一瞬止まったくらいだから、でも彼女何者なのかしら? さっきギルド長から結晶石に関する出所について秘匿するよう言われたし。はぁーこれからしばらくはこの状況が続くかもね)
ため息をつく受付嬢の耳に奥の扉が開く音が聞こえ噂の美少女を確認する。
(あ、噂をすれば!)
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