第8話

 再び街を目指してステラと手を繋いで歩いていると人工的に作られた道を見つけた。


 その道は街に向かって繋がっているようだ。馬車が通っていたり歩いている人をチラホラ見かけるようになっていた。


 ステラと姉妹のように仲良く手を繋ぎながら歩いていくが俺は徐々に不安になっていた。


(何故かすれ違う人がこちらをチラチラ見てるんだよな……あ、また指差された! 何かおかしいのかな?)


 行き交う人は必ず俺を見てヒソヒソと会話をしているのでそれが何故なのか? 段々と足取りが重くなり気付くとステラに引っ張られるように歩いていた。


「あ! 街が見えたよ!」


 ステラが嬉しそうに俺の手を引くと坂を登りきった先に大きな街が姿を現した。


(おお、なんかテレビで見たヨーロッパの街並みに似ている気がする)


 人が多く出入りしている入り口に向かって歩いて行くと人が騒がしく動いていた。


 かたや大きな荷物を一生懸命に持って歩く男。談笑しながら門に向かう親子3人。紳士な服装のお爺さんなど前の世界でもある光景に見入っていた。


(ステラを見て分かってはいたけど人の姿は前の世界と変わらないみたいだ。よかった〜尻尾とか生えてたらどうしようかと思ったよ)


 大きな門には門番が立っているが皆素通りしている。許可証みたいのはいらないと分かるとホッと胸を撫で下ろした。


 門を通ろうとすると門番の若い男がいやに俺をじっと見ている。


「ようこそポーラトールへ!」


 何故か俺に直接言ってきたから笑顔で返すと嬉しそうにはしゃぎ隣の男に怒られる。


 それが可笑しくて笑ってしまった。


 「「「はぁ〜」」」

 

 (あれ? 何か周りからため息が……)


 俺の周りには何故か人だかりができていた。


 気まずいので足早に門から街の入り口へ歩いているとまた周りから視線を感じる。


(すれ違う人が立ち止まってこっちを凝視しているし、あちこちでヒソヒソ話してるんだけどよそ者だからかな?)


 段々と不安になってくる。その内警察のような人が来るのかなと嫌なイメージだけが頭に浮かぶ。


(そういえばこの街の名前はポーラトールと言ってたな。しばらくここを活動拠点にしよう! さてとまずはお金の確保だな……前に洞窟で手に入れた宝石でも売ってみるか)


 門をくぐると更に賑やかな声と共に美しい街並みが広がる。


 初めての街は何もかもが新鮮だった。


(前の世界では海外に行った事がないけど多分同じ気持ちなんだろうな)


 海外で日本製の電化製品を見つけるようにこの世界にある物を見て、あったなあれとか、あれに似てる! なんて思ってしまい少し嬉しくなる。


 キョロキョロと不審者のように周りを見ていると宿屋らしい建物を見つけた。


 前に置いてある看板には1泊100ラナと書いてあった。


(通貨単位はラナっていうのか覚えとこ。まだ貨幣とかわからないからこれから勉強しなきゃなぁ)


 看板をじっと見ながらそんな事を考えていると……。


 ザワザワ、ザワザワ


(何か騒がしいな、あれ?)


 振り返ると皆がこちらを見てヒソヒソ話しているのだ。流石にこれには動揺してしまう。


「ちょっと! 見てあの子! 凄く可愛いわぁ! 女の私でも見惚れちゃうくらい!」


「ほんと! 見た瞬間あまりの美しさに固まっちゃった! もう嫉妬を通り越すくらいだわぁ」


 2人の女性が虚な表情で俺を見ながらそう話している。


「おい見ろよ! あそこの女の子を連れてる女!」


「さっきから見てるよ、というか綺麗過ぎて目が離せん、こんないい女見たことないぞ! 困ってそうだし声かけてみるか?」


 こちらも男2人で話している他にもあちこちで綺麗やら可愛いと連呼している。


(俺のことだよなこれ……確かに女神様に誰もが一目惚れするくらいな事を言ったけどこんなにざわつく程なのかな? もしかして人を惚れさせるオーラでも出てたりして……まぁ可愛い顔なのは分かるよ俺も初めて見た時はしばらく見惚れてたもんな)


 自分を他人のように評価していると、いよいよ人も増えてきたので焦りが見え始めた。


(このままだとマズイ気がするな、変なのに絡まれてもやだし移動しよう)


 ステラの手を取ると足早に奥へと進んでいった。


 宝石を売る場所をどこで聞けばいいのか迷っていると冒険者ギルドという看板が視界に入る。


(あれだ! 何人かにつけられてるみたいだし困ったな)


 後について来る住民から逃げる様に建物に入っていく。


(参ったなぁ顔を隠しても目立つだけだし、しばらくここで暮らして見慣れてもらうしかないか)


 扉を開くとカウンターが沢山ありテーブルもいくつか並べられている。


 空いていた受付があったので誰かが先に座る前に急いでそこに向かった。


 受付嬢は何か紙に書いているみたいだが構わず声を掛けた。


『あの、すいません』


「はい」


 受付嬢は顔を上げ俺を見ると一瞬驚いた顔で止まった後に「あ、すいません」と笑顔を向けた。


(なかなか綺麗なお姉さんだ、流石受付嬢だ。笑顔が眩しい!)


『申し訳ないのですがこの街に来るのが初めてで聞きたい事があるのですが』


「なんでしょうか」


『実は売りたい物がありましてどこで売ったらいいか分からなくて』


「何をお売りになりたいのでしょうか?」


『えーと、これです』


 洞窟で手に入れた宝石を一つ机に置いた。


 洞窟で手に入れた宝石は全部で4つだった。大きさはほぼ同じで、1階では赤、2階は黄色、3階は青、4階は虹色と全て違う色になっていた。


 とりあえず1階で手に入れた赤い宝石を売ってみようと思ったのだ。


 だって上にいくに連れ価値が高いものだというのが定石でしょ? という安直な考えなのだが。


 受付嬢は宝石を手にとりじっと見て何か考え込んでいる。


「これって!……こんなに大きいのがあるの……」


 ブツブツ言いながら宝石を見ていたが「鑑定するか」と言いながらが立ち上がる。


「少しお待ち頂いても宜しいですか?」


 頷くと受付嬢は奥の部屋に入っていった。


 受付嬢が帰ってくるまで周りを見渡していると。


 じー、じー


(視線が凄いぞ! 皆こっちを見てる!?)


 今度は冒険者達の視線が俺に集中している。


「彼女冒険者かしら?」


「そしたらPT組みたい! 後で誘おうか!」


 女2人組の会話が聞こえる。


「あ、こっち見た! 綺麗〜」


「何か困った顔してるけどその顔もいいな」


 こちらも2人組の男女が俺をじっと見ながら話していた。


「何処から来たんだろう?」


「あんな綺麗な顔だし今まで噂もないから別の大陸から来たんじゃないかな」


「だとしたらかなりの大富豪か王族の可能性が……」


(受付さん早く来てくれないかな〜気まずい!)


 祈るように待っていると部屋から受付嬢が出てくるなり「こちらへどうぞ」と言われたので奥の部屋に急いで入っていた。

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