第7話
朝目覚めた俺は家の物で旅に必要そうなものをウキウキしながら指輪に収納していた。
まるで前の世界で一人暮らしを始めた時の様に楽しい。
『準備OK! いよいよ旅の始まりだ!』
玄関を出て庭に立つと後ろを振り向いた。
まだ数十日しか住んでいなかったけど見慣れた家を眺めていると少し寂しい気持ちになる。
『……行ってきます!』
誰もいない家に向かって一礼すると森の出口に向かって歩き出した。
目印を頼りに進んでいくと幸運にも道中魔物に会わずに無事森を抜ける事ができた。
『おおー‼︎』
目の前は見渡す限りの草原が広がっていてテンションが上がる。
『いつも薄暗い森にいたから爽快感が凄いな!』
空を見上げると晴天が広がる。まるで旅の始まりを祝福しているように思えた。
『さて……街はどの方向へ行けばいいんだ?』
しばらく歩いて見晴らしのいい場所までくると手を直角に額へ当て空からの光を遮るとそのまま辺りをぐるっと見回した。
『あ!』
遠くの方で一筋の線が空に立っていてよく見ると煙が上がっているようだった。
『焚き火かな? だとすればあそこに誰かいそうだな』
久々にみる森以外の光景に気分が良い俺は鼻歌を歌いながら煙が上がる方へ歩いていった。
歩きながら周りを見てみると小さい湖には鹿のような動物が3匹いて水を飲んでいて空にはデカい鳥が群れをなして飛んでいた。
『お! もう着いた! 以外と早かったな!』
煙が立つ場所は遠いかと思ったけどハイキングのように楽しく歩いていたから気付いたら着いていたような感覚だった。
煙は建物から出ていた周辺にも崩れてしまった家がいくつかありここに村か集落があったと分かった。
『ちょっと待てよ……何があったんだ⁉︎』
先程とは一転して緊張が走る。
(魔物に襲われたのか? それとも戦争? とりあえず誰かいないか探そう)
周辺を捜索していると女の子の泣いている声がかすかに耳に入った。
その声のした方へ向かうと幼い女の子が泣きながら立ち尽くしていた。
『大丈夫?』
女の子のそばに行き声をかけると女の子は俺に抱きついてきた。
震える女の子を抱きしめながら『大丈夫だよ』と声を掛けて安心させるように頭を撫でる。
泣き止むのを待って落ち着いた頃に話を聞く事にした。
『君の名前は?』
「ステラ」
女の子は幼稚園児位で茶色いセミロングのサラサラした髪にワンピースのような水色の服を着ていた。
顔は泣いて赤く染まり元気がない様子だが俺はハンカチで顔を優しく拭くと笑顔で話し掛けた。
『僕はエレナ、よろしくね。ここで何があったか教えてくれるかい?』
「わかんない、お外で遊んでたらおっきなモジャモジャにぶつかって……」
(恐らく運良く見つからない場所で気を失ってたんだな。こうなった以上ここに置いていけない……街まで連れて行こう)
『じゃあ僕と一緒に街に行こうか。ここから街まで行った事ある?』
「うんお父さんとよく行くの。あっちに歩いていけばでっかい街があるよ」
ステラが指を差す方向には村の門が見え先には道ができていた。
(とりあえず道が見えるからそれに沿って歩いて行くか……)
『よし! じゃあ行こうか』
手を差し出すとステラは手を取り嬉しそうに返事をした。
「うん! エレナお姉ちゃん!」
(うーんお姉ちゃんかぁ。ここに来てしばらく経つけど今だに女になった事に慣れていないんだよなぁ)
かれこれ2時間は歩いた気がするが一向に街は見えない。
(さっきステラに聞いたら途中で野宿するって言ってたからいい場所見つけたらそこで野宿だな……それにしても道中色々話をしてきたからか俺に随分と懐いてきたな)
笑顔で話しかけてくるステラの姿につられて笑みが溢れる。前の世界では兄弟はいなかったが妹ように可愛いかった。
(村の状態を見ると両親は生きている可能性が厳しいと思うけど街に着いたら探してみよう)
またしばらく歩くとステラの足取りが重そうに見える。
(結構歩いたし疲れてきてるな……もう日も暮れてきたしどこかに野宿できる場所はないかな)
辺りを見回すと洞窟が目に入った。
『ステラ、もう暗くなるからあそこに泊まろうか?』
洞窟を指差してそう言うとステラは少し嬉しそうな顔をする。
「わかった!」
(よし! そうと決まればまずは寝床の用意だな)
洞窟の中は特に広くもなく魔物の姿も無かった。
『中は大丈夫だな! そうと決まれば!』
指輪から薪や鍋に食材と出していく。
次から次へと出てくる物に驚くステラを横目に料理をする準備を始めた。
料理は肉と野菜を使った特製スープとデザートは果物を用意した。
「美味しいー! エレナお姉ちゃんいいお嫁さんになれるね! お母さんが言ってたよ美味しいご飯が作れるといいお嫁さんになれるって」
『はは、ありがと』
苦笑いしか出ない……何だか複雑な気持ちになる。
(いいお嫁さんねぇ……ここに来てから色々考えてみたけどやっぱり体は女だけど本来俺は男だ。女の子に恋はするかも知れないけど男は流石に無いな……でも女の子に好きなんて言ったら相手は困るだろうし……よく考えたら辛いかも。もし好きな女の子ができて他の男に取られるなんて考えたくもないや)
どうしても立ち塞がる女の体という壁は俺にはどうすることもできない。
(俺は男だと言っても誰にも信じてもらえないよね……これから色々な人に出会う事になるからなぁ……どうなる事やら)
夕食の後洞窟に木の板と布団を敷いた。
(一応入口周りに柵を作っておいたから大丈夫だろ)
『じゃあ一緒に寝よっか?』
布団に入り、眠いのか体温が上がったステラを抱きしめながら眠りについた。
カランカラン
洞窟の外から何やら音がすると目が覚めた。
柵の隙間から外を見ると日が差している。
眩しさを感じながら隙間を覗くと馬車のような馬に似た動物が荷台を引っ張って走っていた。
(今の音は馬車が通る音かぁ〜)
『ふぁ〜もう朝かぁ』
隣をみるとステラが気持ち良さそうに寝息を立てている。
(そろそろ起こそうか……うーんもうちょっとだけ!)
再び横になりステラの頭を撫でる。
(可愛い寝顔だ……この世界は魔物がいる事で生きるのが大変な世界なんだよな……前の世界でも紛争地域があったり飢餓に苦しむ子もいるのは知っているけどそれ以上に危険が多い、魔物は人と違って見境なく襲ってくるから……)
前の世界で俺は両親を亡くしているけどここでは訳が違ってくる。
(この世界で、ステラの歳で親がいないなんて考えたら俺なら耐えられないかもしれない……この子の親が見つかるまで一緒にいよう)
「エレナお姉ちゃんおはよう……」
考え事をしていていつの間にか時間が経っていたのか、ステラはすでに起きていてまだ眠そうな顔を擦っていた。
『おはようステラ、そろそろ行こうか』
柵を消して布団を収納すると洞窟から眩しい光を受けながら出る。
『気持ちいい! 今日も快晴だな!』
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