第6話

 所々に装飾彫刻が施され壁の隙間からうっすらと光が漏れている所を見るとここが最上階のようだ。


 やっと最上階に辿り着いた事も忘れ神秘的な光景を息を呑んでしばらく眺めていた。


 ふと視線を落とすと祭壇があり入口にあった水晶が置かれている。


『これにもマナを流すのかな?』


 近づいて水晶に手を置きマナを流すと祭壇の後ろの方からゴゴゴと音がしているのが聞こえた。


 音のする方へ行ってみると幾つか扉があり一箇所だけ扉が開いている。


 中へ入るとそこには木でできたベッドに骸骨となった亡骸が仰向けになっていた。


 ベッドの横には綺麗な装飾が施された箱が置いてあり俺はそれを手に取るとパカッと開けた。


 透明な宝石が埋め込まれた銀色の指輪の他に小さな瓶が入っていた。


 瓶には栓がしてある。


(中に何が入っているのかな? 薬かな?)


 普通なら警戒する所だが俺は何となくポンっと栓を抜いてしまった。


 ブワッ‼︎


『うわ⁉︎ 何だ⁉︎』


 たちまち紫色の煙が噴き出すと共に俺の体から出たマナが吸われるように亡骸へ流れていった。


 体から力が抜けていくような感覚に襲われたが煙が消えていくと同時に収まり煙の向こうから人の気配を感じた。


「ふーようやく帰ってきたぜ」


 男の声が耳に入ると俺は警戒を強めて身構える。


 煙が完全に消えた時目の前のベッドに座る男と目が合った。


 男は20代くらいで精悍な顔つき、ウエーブのかかった茶色い髪の毛、鋭い眼光の奥には微かに優しさが滲み出ているような気がして何となく敵ではないと思った。


「俺を蘇らせてくれたみたいだな」


 男は落ち着いた声をしていた。


『まぁさせられたって感じだけどね』


「悪いな、どうしても復活するには多くのマナが必要だったのさ。まさか1人でここまで来れる奴がいるとは思わなかったけどな。お前名前はなんていうんだ?」


『名前はしゅ……』


 俺は思わず修一と言いそうになってそれを飲み込むと言葉を詰まらせた。


(名前かぁ……そういえばこっちの世界で名乗った事なかったから忘れてた! さすがにこの姿で修一じゃおかしいよなぁ)


 姿は可愛い女の子だと思うと修一はおかしいよな。


 俺は代わりの名前を考えた。


 そんな時、頭にはあるゲームキャラの顔が浮かんでいた。


(これだ!)


『エレナ』


 前の世界でプレイしていたゲーム「ブレイズファンタジー」の推しヒロインの名前を名乗る事にした。


「エレナか……俺はユギルだ。助けてくれた礼はしたいんだがやる事があるんだ。とりあえずの礼としてその指輪はやるよ」


 さっき宝箱に入っていた指輪は俺の右手に乗せられていてユギルはそれに視線を移してそう言った。


「その指輪には特殊な効果があってな触れた物を収納できる優れものだ。マナ使いじゃないと使えないんだがここまで来たお前なら問題ないだろう。ちょっと着けてみろ」


 言われた通りに指輪をちょうど入る右手の人差し指着けてみると先端の宝石が淡く光った。


「試しにその箱に触れてマナを指輪に流すんだ。そうすると指輪に収納されるんだ。出す時はまた指輪にマナを流すと頭に入っている物が浮かびあがるから出したい物を出すイメージをすればいい」


 早速教わった通りに箱に触れマナを指輪に流すと一瞬で箱が指輪に吸われていった。また指輪にマナを流すと頭にさっきの箱が浮かんできたのでそれを出すイメージをすると指輪から箱が現れた。


(これは使えるな!)


『ありがたく貰っとくね』


「またな」


『待って! ここからどうやって出るの?』


「ん? ああ、付いて来い」


 ユギルはそう言うと部屋から出て行った。慌てて後を追う。


「ここから外に出れる」


 ユギルが開いた扉の先には森が見える。


『助かったぁ〜』


「またな」


『うん』


 ユギルはひと足先に外に出ると俺も後に続いた。


 出た先にユギルの姿はなく辺りは真っ暗になっていた。


 一度死にかけたうえジメジメした暗い洞窟に長時間いたので外の空気に触れてホッとする。


 肌寒い風に吹かれると体を震わしながら急いで家に帰って行った。


 家に帰ると流石に連戦でマナを使い過ぎたのか緊張の連続も響いて体が少しだるかった。


 簡単に夕食を作り風呂に入った後布団に潜り込むと天井を眺めながら俺はここから出る事を決めた。


(明日から旅に出よう。マナもある程度使える様になったし森から抜ける道も把握してある)


『どんな世界なんだろう……』


 ワクワクしながらも気付いたら眠りに落ちていた。




 ある人里離れた森の中には男が立っていた。


「100年振り……か……」


 男はそう呟くと崩れかけた門をくぐり中へ入っていく。


 周りには瓦礫が散乱してその隙間から雑草が生え風に揺られている。


 男はある場所で足を止めると懐かしそうにその場所を眺めて呟いた。


「サラ……」


 男の目は真っ赤な復讐の炎に燃えていた。

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