第5話

 罠にかかったように洞窟に閉じ込められた俺は覚悟を決め奥へ進んでいく事にした。


 中は暗くジメジメとしていたが道幅が広く1本道だったのでよくあるRPGのような迷路でない事にほっとしながら歩いていた。


 コツコツと俺の足音のみが洞窟に響き雫の落ちる音がたまにする程度で段々と不安と恐怖が足取りを遅めた。


 周りを警戒しながら進み、開いた空間に辿り着いた時だ。物音と一瞬光が揺れ動いたのを見逃さなかった。


(奥に何かいる⁉︎)


 耳を澄まし何かがこちらへ来るのが段々と大きくなる音で分かると反射的にマナを纏って後ろに飛んだ。


「光よ‼︎」


 パァァ! 天井へ放った光の玉がぶつかるとキラキラと空間を照らした。


 するとそこにはサルにコウモリの翼が生えた様な姿をした魔物が天井に足を付け逆さ吊りにぶら下がってユラユラと揺れ動いていた。


 魔物は天井に両手をつくと赤く鋭い目で俺を見る。


『こっちに来る‼︎』


 予想通り魔物は天井を蹴り勢いを増して俺に接近すると長い腕を振りかぶった。


 魔物の手から伸びる鋭く長い爪を刃物の様に操り容赦なく俺を襲う。


「ギィギャー!!」


 それをかわすと爪は岩にガギィと音を立てて爪痕を付けた。


(どうする? 素早いし飛んでるから厄介だな……森でも似たような奴と戦ったことがあるけどスピードが格段にこいつの方が上だ!)

 

 森の魔物より格上の魔物は空を飛んで天井に貼り付くとまた俺目掛けて勢いよく飛び出した。


(今だ!)


『氷でどうだ‼︎』


 手にマナを溜めると無数に浮かぶ拳大の氷に変えて襲いかかる魔物に向けて放った。


 ガ! ガガガ‼︎


「グギャー!!」


 魔物は俺に触れる事なく氷の大群に襲われ断末魔をあげて倒れ姿を消していった。


『ふぅ、何とかなったな……』


(森でいろんな魔物と戦ってきた経験と努力の賜物だな)


 ここ数日は朝から夜まで森に生息する様々な魔物と戦っていて俺はマナを操り戦闘をこなしていた。


 本当は料理がしたいけどこの世界ではこれが当たり前なのかもしれないと思ったのと同時に強くなりたいという思いがあった。


 前の世界での最後……俺は通り魔から親子を救えなかった。夢であの時の様子が出てくる度に強くなりたいと思うようになっていた。


 この世界でそれができる力があるなら今度は救えるように強くなってやる!


 だから俺はこの世界でやるべき事の第一目標に料理で人を幸せにする事として第二に魔物から人を助けるという新たな目標を立てた。せめて身近な人だけでも助けられるようになりたいと考えている。


 カチャン!


『ん?』


 何かが落ちる音がしたので魔物が倒れていた場所を見ると赤い宝石が落ちていた。


 それを手に取って目線まで上げると光に当てて眺める。


『あの魔物が持ってたのかな? 街で売ればお金の足しになるかもしれない』


 宝石を袋に入れて奥に行くと上に続く階段が見える。


 一体この洞窟は何階まであるのか……不安を抱えながら階段を登っていった。



 数時間後俺は重い足取りで3階の階段を登っていた。


(まあ2階と3階の魔物は1階と大差なかったな)


 2階では巨大な蛇に大きな牙が付いた魔物で3階は2足歩行のトラに似た顔をした魔物がいたがあらかじめマナを溜め特大のいかずちをお見舞いして瞬殺した。


『後何階あるんだよ〜』


 4階の扉を開けると通路は無く広間のみだった。


『お! 今までと広さが違うぞ!』


 今までとは違う風景に疲れた体にも自然と活力が湧く。


 まるでどうぞこの広い場所で思う存分戦ってね! といわんばかりの広大な場所に不安が募った。


『今までの階層よりも遥かに広いな……何だろう嫌な予感がする……』


「グルルル!」


 魔物の唸り声は周囲を震わせ強い風が俺の体を煽る。


『やっぱりかぁー‼︎』


 期待を裏切らない展開に俺は思わず突っ込んでしまった。


 期待に応えて出てきたのはボスキャラらしい大きな翼が大きく開かれた白いドラゴンだった。


『で、デカ⁉︎ まだここに来てそんな経ってないのにいきなりドラゴンかよ⁉︎』


 白竜は焦る俺に向かって先制攻撃を仕掛けてきた。大きく口を開けると青い炎が吹き出した。


(しまった! 先制攻撃を忘れてた!)


 あまりの動揺から先制攻撃を忘れ慌てて炎を避けながら作戦を考え始めた。


 しかし空中からの突撃など激しい攻撃でそれどころではなく粉々に砕けた岩を見て背筋が凍った。


(こんなの食らったらヤバい!)


 今までこの体が強過ぎて危険を感じなかった戦闘だったがここにきて緊張感が爆上がりした。


 俺は初めて死という言葉が頭をよぎり冷や汗が落ちる。


『こ、こんな所で死ねるか! これでもくらえ!』


 攻撃をかわして隙が出来た白竜にいかずちを落とした。


「ガァァァ!」


『よし! 効いているみたいだ! いけるか⁉︎』


 手応えを感じていけると思った矢先愕然とさせる光景が目に映っていた。


『な⁉︎』


 竜の体が光に包まれていき焦げた部分が綺麗に治っていたのだ。


『嘘だろ……反則だよそれは』


(まさか回復できるなんてヤバいぞ……)


 初めて自身を回復する魔物に出会い更に動揺が広がっていく。


(どうすればいい⁉︎)


 まだ経験値が足りないのを身に染みてわからされた俺は攻撃を避けながら持久戦に持ち込むか一気に倒すかそれしか作戦が思い浮かばなかった。


(どちらも失敗した時のリスクが高いけど……やるしかない)


 考えた末出た結論は全力の一撃にかけて倒す事だった。


『ありったけのマナをぶち込んでやる!』


 結論を出した俺はそれに賭けるべく、まずいかずちを白竜に放ち時間を稼ぐ事にした。


 いかずちの傷を竜が回復で光に包まれている間に距離をとり必死に右手にマナを掻き集めた。


 そして今までにないくらいのマナが集まる右手を竜に向けて叫んだ。


『頼む! これで倒れてくれー‼︎』


 ズカーン‼︎


 特大のいかずちが竜を襲った。


「グガァー‼︎」


 竜が黒焦げになり下に落ちていったのを見ると俺はその場に仰向けに倒れた。


(あれ? 体が……)


 動かない体をみてこれがマナを出し尽くした状態だと分かった。


『これがマナを出し尽くした状態か……』


 動かない体でも何とか首を動かし黒焦げの竜を見るが微動だにしなかった。


(ふぅ、何とかたおせ……)


 パァァァァ!


 ほっとした次の瞬間眩い光が竜を包み込んだ。


『……終わったな』


 その光景をじっと見ることしかできない俺は小さい声でそう呟いていた。


(ここに来て20日で終わりか……女神様ごめんなさい)


 しかし竜はピクリとも動かずこちらをじっと見ている。


(どうしたんだ?)


 すると竜はクルルーと高い鳴き声をあげ眩い光と共に消えていった。


『た、助かった?』


 訳が分からなかったが助かった事に安堵すると動けないので潔くそのまま仰向けになって待つ事にした。


 数時間後、体が動けるようになった俺はゆっくりとした足取りで竜がいた場所に向かった。


 他の階にいた魔物と同じく宝石が転がっていたがそれはカラフルな虹色の宝石だった。


『綺麗な石だな……』


 手のひらに載せた石はキラキラと微弱な光を放っている。


 奥へ進み空洞を見つけると上に続く階段発見した。階段を登り5階への扉を開くとそこには神殿の様な光景が広がっていた。

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