第3話
「それじゃ何から話そうかな」
目の前に座る管理者のお兄さんは頭で話す事を整理しているのか少し考えるように間を開けた後真剣な表情で口を開いた。
「まずは文明についてなんだけど……この世界は君の住んでいた世界より遅れているんだ。原因については魔物の存在だと思う」
魔物と聞いた俺はテレビゲームでのモンスターを想像しゾッとした。
『ま、魔物って人を襲うんですか?』
「そうだね、君の世界にもその昔に恐竜と呼ばれる生物がいたよね? だが絶滅してしまった。考えた事はあるかい? もしも絶滅しなかったらどうなっていたか」
(もしも恐竜が絶滅していなかったらどうなっていたのかな? そんな脅威があったら人はきっと生活を豊かにする文明よりも生き残る術を優先するだろうか)
「この世界は人と魔物が争いながら互いに進化して来た歴史があるんだ。人の方が圧倒的に数が多いが魔物は数が少なくとも強力な力がある……」
俺は今までいた世界と全く違う世界に来たんだと思いがくぜんとした。
(魔物なんて恐竜と大して変わらないじゃないか……)
話を聞くうちに家に入る前のワクワクしたものとは一転し俺の心は暗くなっていた。
(この世界の人は常に危険と隣り合わせの生活をしているのか……大変な世界に来ちゃったな、のんびり好きな料理なんてしていられるのか?)
管理者のお兄さんは俺の顔を見て微笑んでいる。俺の不安そうな顔に心配しすぎだよとでも言うような顔だった。
「はは、ごめんごめん! あんまり怖がらせても申し訳ないからちょっと話を変えようか。この世界の人には君の世界の人にはない力があるんだ。マナと呼ばれる力だよ」
『マナ?』
「そう、君に分かりやすくいうと魔法の様なものだ。この世界の人はマナを生み出せるがその量は個人差が大きく実際に扱える者は1000人に1人くらいかな? 更にまともに使えるとなるともっと減るけどね、そのお陰もあって今も人は絶滅せずに生きているんだよ」
(この世界には魔法があるのか……俺には使えるのかな?)
「見た所君も使えるようになってるみたいだね。女神様は特別な身体を用意してくれたんだね」
俺の思っている疑問を察したのか管理者のお兄さんの言葉に思わず声を上げた。
『ほんとですか‼︎』
(マジで⁉︎ やったぁ! ありがとう女神様!)
魔法が使えるという夢のような話にさっきまでの陰鬱な気分が多少晴れる。
「じゃあ簡単にマナの使い方を教えるよ。外に出ようか」
『お願いします!』
家の外に出ると少し日が落ちてきて木々の隙間からオレンジ色の光が漏れていた。
もう夕方になるのかな? っていうかこの世界でも前の世界のような四季とか太陽みたいなものはあるのかな?
この世界に来て特に気にして無いところを見ると気候は前の世界と変わってないようだ。
「さてと……まあそんなに難しい事ではないよ、マナは生まれた時に出せる量がある程度決まるから量が多い人は簡単に出せるけど少ない人はどう頑張っても出せないんだ。とりあえず右手に意識を集中してみてごらん」
言われた通りに右手に意識を集中してみると霧の様なものが手に集まっていく。
(ん? なんかモヤモヤしたものが出てきたな)
『何かモヤモヤしたものが出てきました』
「それがマナだよそれを集めていくイメージでもっと集中して」
『はい!』
モヤモヤはどんどん濃くなっていき手が見えなくなるほどだった。
「よし! そのまま火をイメージして右手を前方に向けて放出するイメージをするんだ!」
(火をイメージ……それを放出するイメージ!)
ボゥ‼︎
「わ! 火が⁉︎」
右手に炎が纏うが熱くない、それでも俺の脳が熱いと勘違いしているのか少し熱く感じた。
急いで前方に手を突き出すと火に変化したマナが火炎放射器の様な勢いで放出された。
『す、凄い……」
勢いよく出た炎に驚きを隠せない俺は呆然として目の前の焼けた地面を見ていた。
「すごいな……一体どれだけのマナを生み出せるんだか」
後ろから管理者のお兄さんの驚いた声が聞こえた。
「疲れていないのかい? 今のをこの世界のマナ使いがやったら動けなくなるよ」
それを聞いて体を確認するが特に変化は見られなかった。
『まだ大丈夫そうです』
その言葉が嘘じゃないと判断したのか管理者のお兄さんは真剣な顔で俺を見た。
「いいかい? 君のマナの量は規格外みたいだからこの世界の人間、特にこの大陸ではなるべく隠しておいた方がいい。あの国に目をつけられても困るしね」
『あの国?』
「ああ気にしないで」
(そうなのか……あんまり目立ちたくないから気を付けよう変な事に巻き込まれそうだし)
「基本的にはマナを使って今みたいに火に変えたり他にもイメージできれば色々なものに変化させられるってことなんだ。後は自分で色々試してみてほしい」
『え? もうお終い?』
ほんとに簡単な説明に拍子抜けすると管理者のお兄さんはバツの悪そうな顔をしていた。
「時間がないんだよね、あと少ししかここに居られないんだよ」
『ええ⁉︎ まだ聞きたいことが多いのに……』
確かに数時間が経とうとしているが俺にはまだ聞きたいことがありすぎる。1日でも足りない位に。
「もう暗くなる。家に戻ろうか」
薄暗くなった家に入り椅子に座った俺に管理者のお兄さんが話しかけてきた。
「さて、そろそろ行かなきゃ。最後に何か聞きたいことがあるかい?」
『僕は何をこの世界でやらなくてはならないのでしょうか? もしかして魔物の王を倒すとか?』
俺は話を聞いているうちに何か裏(使命)があるんじゃないかと思い始めていた。
魔物と人が争うこの世界に来た本当の理由が知りたくなり聞かない訳にはいかなかった。
管理者の兄さんは真剣な俺の顔を見て、ふふっと笑みを浮かべて答えた。
「君はこの世界でやりたい様に生きればいいさ……実際にその目で見て感じて、やるべき事が出来たならそれをやればいいよ」
『分かりました』
それを聞くと体から力が抜けて安堵した気持ちになった。
(ほっとしたぁ〜 もしも魔王を倒せとか言われたらどうしようかと思ったよ! あっちでやりたかった料理で人を幸せにする事をここでやるんだ!)
「……そろそろお別れだ。もう会うことはないけど上から見守っているよ」
『色々ありがとうございました』
管理者のお兄さんの体が透明になっていく。
「この家は自由に使っていいよ。まだその体にも慣れてないだろ? ゆっくり慣れていけばいい……」
最後にそう言い残して管理者のお兄さんはスッと消えていった。
『よ〜し‼︎』
ひとり部屋に残った俺は勢いよく立ち上がった。
使命がない自由な身であると知って気楽な気持ちになるとウキウキしながら家の探索に乗り出したのだった。
管理者は使命はないと知ってホッとした修一の表情を見た時少し心が痛む、言った事が本心ではなかったからだ。
「すまない」
この意味が分かるのはまだ先のことである。
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