第2話
ここは何処だ? 目の前は真っ白な世界が広がっていた。
(なんか周りがボヤけて夢の世界にいるみたいだ)
そんな事を思っているとどこからか声が聞こえてきたので耳を澄ました。
「ふふ、あなたが瀬名修一君ね?」
色気のある女性の声だった。
『はい、あなたは?』
「私は女神よ」
(え? 何を言っているんだ。まあ夢の中ぽいしなんでもありか……)
どうせ夢だろ? と割り切っていた俺は特に動揺はしていなかった。
「夢だと思っているみたいだけど残念ながらあなたは死んだのよ」
死んだと聞いて頭に男に刺された事が蘇る。
焼けるような痛みと女性の悲鳴に俺の心は暗い気持ちに覆われた。
(ああ、やっぱり死んだんだ……)
『じゃあここは天国なんですか? これから何かに生まれ変わるのでしょうか?』
そう言ったのは死んだらどうなるのか両親が死んだ時ずっと考えていた時期があったからだ。
よく天国で暮らすとかまた地球の何かに生まれ変わるとか言うけど、もし天国があるなら親に会いたいと考えていた俺は今それがどうなるのか女神と名乗る声が話し始めるのをドキドキしながら待っていた。
「本当は人は死ぬと魂は消えてしまうだけなのよ、何も残らない。でもあなたの魂が消えてしまうのが惜しくてね」
(惜しい? どういう事?)
天国はないと分かった残念な気持ちの後に意味深な惜しいと言う言葉に首を傾げる。
「あなたに2つ選択肢をあげるわ。一つは他の魂と同じ様にこのまま消えてしまうか、もう一つは今までとは全く違う世界で生きるかよ」
当然俺の答えは決まっている。
『違う世界でもいい、まだやりたい事があるので行きます!』
即答で返すと女神様は少し嬉しそうな声で話し始めた。
「分かったわ! そう答えてくれると思っていたの! 違う世界に行くのだから特別に願いを1つ、出来る事なら叶えてあげるわ」
いきなり願いを叶えるという難題に俺は頭を悩ませた。
(願いか……どうしようかなどんな世界かも分からないしなぁ、やっぱ普通は特殊な力とか大金を要求するよな……)
そんな時最近ハマっていたゲームのブレイズファンタジーが頭に浮かぶ。
(あの主人公の顔に憧れてたんだよなぁ)
よく少女漫画に出てきそうな女性にも見える美しい顔が頭に浮かんだ。
(こんなお願いしてもいいのかな?)
「どうしたの? 何でもいいのよ?」
なかなか言えずにモジモジしている俺に痺れを切らしたのか女神様の早くしろと圧をかけているような口調に少し焦る。
『あの……』
「決まったの?」
『非常にいい辛いのですが……』
俺は何と言おうか必死に考えていた。もしも呆れた声を出されたらどうしようとか「ふざけんな!」と怒られないかなどネガティブな事ばかりが先行してなかなか口に出せなかった。
「……後少ししか待たないからね?」
ヤバい! 俺は思わず勢いで言ってしまえと大きな声を出した。
『僕を誰もが一目惚れする様な綺麗な人にして下さい‼︎』
「分かったわ」
(あ、いいんだ……)
あっけなくオッケーを貰い拍子抜けした。
「なるほどねぇ……あなたの頭に思い浮かんでいるような顔ね」
『え? 見えるんですか?』
「当たり前よ。ふふふ、あなたって意外と……ゴホン!」
女神様は何かぶつぶつと言っていたがひとつ咳払いをする。
「あの? 何か?」
「大丈夫よ! 安心して私に任せなさい! いい体を作ってあげるからね!」
女神様の声はやる気に満ちたように強く聞こえて少し期待に胸が膨らむ。
「それじゃあ頑張ってきなさい」
『ありがとうございます』
「向こうに着いたらその世界を管理している者に会わせてあげるから色々聞くといいわ」
『はい!』
「ではいってらっしゃい……」
そう聞こえた後、意識が薄れていった……。
『ん……』
頬に心地良い風が当たり目を開けると草むらに寝そべっていた。
立ち上がって辺りを見回すとそこは見渡す限りの自然が広がっている。
(広大な草原がまさに絶景って感じだな……久しぶりに来たなこんな自然の中に)
異世界という信じられない場所にいることにまだ実感が湧かず本当は地球の何処かにいるんじゃないかと思うほど違和感がない風景にしばらく見入っていた。
(ここが異世界かぁ……何か信じられないなぁ)
朝起きた時の様にうーんと背伸びをしたのだが……。
(何か体に違和感が……前の世界と違う体だからかしょうがないか)
いつもと違う高さの視界が原因なのか違和感を感じ始める。
背が175センチとまあ高い方だった俺だったけど今はそれよりも頭ひとつ低く感じるのは確かだった。
(あれ? そう言えば伸びをした時なんか声が高かったな)
実は感じていた違和感は声だった事に気付くと試しに声を出す。
『あーあー』
耳に入る女の子の声に嫌な予感がしてくると現実から逃げ始めた。
(これは……視点もちょっと低いし少年からやり直しかぁ)
「まあ小学生くらいからやり直しでも全然いいよ! ラッキーラッキー」
しかしそれは自分を落ち着かせようと言った言葉で内心では頼むから少年であってくれと懇願していたのだった。
現実から逃げるな! と自分に言い聞かせて体を調べ始めた。
モミモミ
膨らんでいる胸から両手に柔らかい感触が伝わる。
『ま、まだだ……まだ希望はある‼︎』
最後の砦である一番性別が分かりやすい箇所にサッっと手を触れた。
(股間には息子が……)
スカ!
見事にすべり息子がいない事を確認した。
ガク!
その場に崩れ落ちると放心状態のまま固まっていた。
(え? え? ……なんでぇ⁈ なんで俺女の子になってんの?)
『マジかよ! 聞いてないよぉ〜! これはリコールでしょ‼︎』
あまりに残酷な現実に叫ぶのを止められなかった。
周りから動物の鳴き声やらバサバサと音がする。
(俺女の子になりたいって言ったっけ?)
女神様との会話を思い返してみるが心当たりがなかった。
『あ! そっかぁ! 知らないうちに俺には女の子になりたい願望があったのかぁ〜 それを察して女神様はこんな体をってそんなわけあるかぁー‼︎』
(どうしよう……中身俺だよ男だよ? 男と恋愛? 結婚? 死んでもやだよ想像しただけでもぞっとするよぉ)
動揺が隠せない俺はこれからの事に不安を覚えて気持ちが落ち込んでしまう。
「どうしたの? なんで泣いてるんだい? 異世界に戸惑ってるのかな?」
涙目になって振り返るとそこには若い男性が立っていた。
(な、なんか古代ローマ人の服装みたいだ)
男性は金髪に少女漫画に出てきそうな顔をしていた。
(ああイケメンだ……これこれ! まさにこうゆう顔が良かったんだよ……)
イケメンなお兄さんを羨ましそうな顔で見ていると、ふと先ほどこのイケメンが言った異世界という言葉が引っ掛かる。
(異世界と言った事からするとこの人が女神様が言っていたこの世界の管理者って人かな?)
「僕はこの世界を管理する者だ、と言っても基本的には観ているだけだけどね……大丈夫?」
『いえ、願いが叶って嬉しくて』
管理者のお兄さんは心配そうな顔でそう聞いてきたが愚痴をこの人に言ってもしょうがないかと諦める。
「そんな風には見えないけど、まあいいか」
言葉とは裏腹に嬉しそうじゃない顔で言う俺に苦笑した管理者のお兄さんは話を続けた。
「それじゃ少しの間だけどこの世界について重要な事を教えるからよく聞いてね」
管理者のお兄さんは前に手を出して握るよう目で促してきた。
「場所を変えよう、とっておきの場所があるんだ」
手をとると周りが光に包まれる、俺は思わず目を瞑ってしまった。
「着いたよ」
『へ?』
目を開けるとさっきの草原風景から森の中だろうか木に囲まれた場所に立っていた。
(ここは何か日本にもあるような場所だな)
子供の頃遊んだ雑木林を思い出して懐かしい気分になる。
目の前にはログハウスのような家がポツンと建っていた。
「君が来ると女神様から聞いてたからね用意しておいたんだ」
管理者のお兄さんはイケメンな顔を更に魅力的に変える笑顔を見せながら言った。
「君のいた世界についてもたまに見てたからね、それに似せて作ってみたんだよ安心するだろ?」
『そうですね、この場所もですけど懐かしいというか日本にいるみたいです』
「そうか、気に入ってくれたみたいで嬉しいよ」
管理者のお兄さんはニコッと嬉しそうな顔をすると俺を家の中に招き入れた。
「さあ時間もないし入って、この世界の事を教えてあげよう」
ここはどんな世界なんだろう期待を胸に家に入っていった。
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