美少女(男)の異世界転生物語〜女神様の勘違いで驚く美少女になった俺がハーレム築いて世界を救う⁉︎〜

尚太郎

第1話

 始業式を終えた俺は桜が舞い散る道を駅に向かってひとり寂しく歩いていた。


『今日から高三か……何かあっという間だったな』


 そう独り言を言いつつ空を見上げると雲ひとつない真っ青な景色に桜の花びらが舞っている。


 春を告げる少し生温い風が俺の顔を撫でた。


(何だろう……この季節は切ない気持ちの方が新しい出会いの期待感を上回ってしまうのは俺だけか?)


「よぉ瀬名ぁ」

 

 後ろの方から俺を呼ぶ声が耳に入ると「はぁ〜」と溜め息をついた。


 その理由は残念ながら男の声だったからだ。しかもそれが学校で一番聞く声だと分かるとそのままスルーしてやろうかと検討を始める。


(可愛い女の子だったらこの切ない気持ちも吹っ飛ぶのになぁ)


『なんだ坂田か』


 嫌々後ろを振り返ると見慣れた仲のいいダチがいたのでいつもの塩対応的な調子で答えてやった。


 この坂田とは、放課後になるとすぐにバイトに行ってしまう弊害でクラスで孤独になっている俺の唯一の友達と呼べる存在だ。


「なんだとは何だよ! 冷たいなぁこの! 今日もバイトか?」


 そう言って体育会系である坂田は俺の首にグっと腕を回して力を入れてくる。


 普通に痛い、貧弱な俺はもちろん解くことは出来ないと諦めた。


『いてて! ああ今日からタイ料理店でバイトなんだ』


「はあ!? またバイト変えたのかよぉ……」


 驚き半分呆れ半分と言ったところか……坂田は俺を変な人を見る目で見ている。


『まあな、色んな飯屋で働いて作り方を知りたいんだよ』


 俺は料理に関しては趣味を越えており、高1になってから気になる店を見つけては和食、イタリアン、中華とバイトをやって作り方など店主が引くほど熱心に勉強をしていたのだ。


「はいはい相変わらずの料理バカだな! 引くわ」


 唯一の友達に引かれたものの夢の為には犠牲は付きものと俺は軽く流す。


『バイトは続けなきゃいけないんだし、これをうまく生かさなきゃね』


 中学2年の時に事故で両親が死んで親戚に引き取られた俺は生活に馴染めずとにかく早く自立したかった。


 高校生になり一人暮らしをしたくて義父に掛け合った所バイトを条件に出された。バイトで料理を勉強できるし一石二鳥じゃん!


 と、この条件を受け入れ一人暮らしを始めたのだ。


 将来は料理人になって多くの人に美味しい料理で幸せにしたいと日々勉強をしている。


「そうだ! お前に言いたい事があったんだ! そろそろ返せよブレイズファンタジー」


 大ヒットしたRPGだからと無理やり押し付けられたゲームなのだが普段そんなにゲームをしなかった俺は何となくやってみるとあまりの面白さに時間を忘れるくらいハマっていた。


 美形の主人公が魔王を倒す旅に出るオーソドックスな展開だが道中で出会うパーティーメンバーの女の子と結婚出来る恋愛シュミレーション要素が含まれている。


 グラフィックのクオリティも高く魅力的な女の子が多く用意されていた。


 さらにこのゲームの世界は一夫多妻制で何人でも嫁にできるので頑張れば全てのヒロインと結婚できたりする。


「お前の推しって誰だっけ?」


『言ってなかったっけ? 圧倒的にエレナだな』

 

 このゲーム第一夫人にしたヒロインのステータス上昇値が上がり新しい技を覚えるので必然的に最終メンバーに入る事になる。


 俺はエレナというヒロインに第一夫人はもちろん新しい装備を真っ先に与えていたほど気に入っていた。


「まあエレナは人気投票でも1位だからな」


 最近ネットで公式が出したファンによる人気投票がありエレナは圧倒的な1位になっていた。


『ソフトのパッケージにも大きく写っているしメインヒロイン扱いが露骨に出てたけど俺は顔とかの見た目じゃないんだよ! 性格が好きなんだよ!』


 俺は他とは違うと言い張る。


『悪いもう少しでクリアできそうだから今日終わらせるよ』


「絶対だぞ! 明日返さなかったらエンディングのネタバレするからな」


 坂田は意地悪そうな顔をして「嫌だろ?」と言ってくる。


『わかったよ! じゃあ駅に行くから」


 別れ道に来たので軽く手を上げて駅の方へ歩いて行く。


「おー、まあ頑張れや」


 坂田からのそっけないねぎらいの言葉を背に受けバイト先に向けて歩いているとさっき坂田に言われた言葉を思い出す。


『料理バカねぇ』


(いつからだっけな料理人を目指す様になったのは……きっと母さんの影響だろうな)


 亡き母さんは料理が得意で作れるレパートリーは数知れず小さい頃から俺は毎日美味しい料理を食べては幸せを感じていた。


(美味しそうに食べる俺を見て嬉しそうに笑ってたな)


 いつからか母さんの横で料理を手伝うようになって父さんにうまいと言われた時凄く嬉しかった思い出がある。それがまた俺の料理に夢中になるきっかけを与えた。


 少し感傷的な気分になると赤くなった目から出そうな涙を堪えた。


 やがて駅近くにあるバイト先の店が見えた時、遠くから聞こえる女性の悲鳴が俺の足を止めた。


 その悲鳴で体に緊張が走ると騒ついていた駅の方に視線を移した。


(何かあったのかな? 事故か?)


 駅の方へ歩いて行くと向こうの方で数人が何かから逃げる様に走って行くのが見えた。


 その表情は恐怖でこわばっており必死さが伝わる。俺の本能がそこへ行くなと言っているのか足取りが重くなっていた。


 すると遠くの方からハッキリとした叫ぶ声が聞こえた。


「逃げろー!!」


「早く逃げろ!」


「キャー!!」


(あれ? 昔ニュース動画でこの光景を見たことあるぞ確か秋葉原で……)


「やだー! 足痛いぃー」


「お願いだから立って!」


 その時数十メートル先でうつ伏せで泣いている子供を必死で起こそうとしている女性が見えた。


(マズい! あれじゃもし通り魔がいたとしたら標的にされる!)


 すぐに女性の元へ駆け寄り声を掛けた。


『大丈夫ですか! 何があったんです!?』


「は、刃物を持った男が」


 顔が青ざめている女性の言葉に背筋がぞくっとした。こわばった体を必死に動かして何とか子供を抱き上げた。


『は、早く逃げなきゃ! この子は僕が抱っこしていきます!』


「すいません! お願いしま……キャー‼︎」


 ドス!


 背中に焼ける様な痛みを感じる……。


 膝から崩れ落ちるとそのまま倒れた。


 耳には男の奇声が遠くに聞こえる。


(痛ってぇ……まだやり残した事があるのにここで死ぬのかよ……)


 徐々に意識が薄れていく、子供と女性の泣く声を聴きながら心の中で呟いた。


(ごめんね守れなくて……)

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る