1-4 冷淡な生物教師②
「納得いかねー。なんで、和泉だけが居残りなの? オレらも一緒になって、喋ってたじゃん」
「まぁでも、ビーカーを割ったのは和泉だしな」
授業が終わり、昼休みに入ってからも中嶋はずっとご機嫌斜めだった。
「だいたい阿澄って何か和泉に、あたりキツくない?」
それは和泉も感じていることだった。
午前の実験のとき、たまたま和泉は中嶋たちと話していたが、普段の授業態度は決して悪くない。それなのに、氷のように冷たい視線を投げられる。教卓の上からあの目で
「まぁでも、阿澄って、どの生徒に対しても冷たいよな」
溝上も阿澄に対して同じようなことを思っているらしい。
「この前、質問に行ったら、あからさまに嫌悪の目で見られてさ。帰ろうかと思ったよ」
それを聞いた中嶋は口をへの字にして言った。
「なんで先生なんかやってるんだろうなー。そんなんだから、陰口叩かれたり、脅されたりするんだよ」
実際、阿澄先生の悪い噂は、いたるところで聞く。薬をやってるとか、DV気質があるとか、人間の解剖をやったことがあるとか。どれも噂に過ぎないだろうが、「阿澄先生なら、やってるかもしれない」と思わせるような雰囲気が、阿澄にはある。
そんなミステリアスな阿澄を見て、色めき立つ女子生徒もいるが、大半の生徒はあまりよく思っていなかった。
「じゃあ、和泉。今日イベント行くの、やめとこうか?」
中嶋が悲しそうに眉をハの字にしながら言った。
「いや、二人で行ってきてよ。中嶋、楽しみにしてたじゃん」
今日の夕方、近くのモールで、中嶋が推しているバンドがフリーライブをやることになっている。
今日はたまたま中嶋の部活、バスケ部が休みで、一緒に行こうと前々から計画していた。
「でも………」
「僕のことは気にしなくていいよ」
それでも渋る中嶋を見て、溝上が言った。
「和泉はいいって言ってるんだし、行こうぜ」
彼のこういうところに、和泉は本当に感謝している。ここで中嶋たちがイベントに行くのをやめたら、和泉は自分のせいでと思ってしまう。そうならないよう、溝上は察してそっと気遣ってくれたのだ。
これ以上こちらが気を遣わないでいいように配慮してくれている。今日の居残りは死ぬほど憂鬱だが、二人を巻き込まなくて良かったと思った。
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