1-2 屋上の彼女③

「道連れ? それってつまり、一緒にあの世に連れて行くってことですよね。そんなことができるんですか」

「やったことはないけど、たぶんできるよ」


 彼女は和泉に一歩近づき、その右手を和泉の胸の中に入れた。


「………っ!」


 幽霊には驚かないが、彼女のこの行動にはさすがに和泉も驚いた。自分の胸の中に彼女の手が入っている。ひんやりとしたものが胸全体にじんわりと広がっていく。この冷たさは彼女自身の体温なのだろうか。


「やっぱり生きている人間は温かいな」


 彼女は寂しそうに微笑んだ。


 そして何かをキュッと握られている感覚がした。臓器とかそういうのを掴まれたというのではなく、何かに締め付けられているような感覚。その感覚は、和泉をひどく不安にさせる。


「あの………」

「私が今掴んでいるのは君の魂だ。そしてこれを君の身体から引き抜くと、君はおそらく死ぬ。試しに抜いてみるかい?」


 いたずらっぽい笑みを彼女は見せた。


「なんてね」


 パッと彼女は掴んでいる何かを離すと、胸から腕を引き抜いた。キュッと握られている感覚も同時に消えた。


「確実に道連れにできるかはわからない。でも、私が君にできるお礼は、これくらいしかない」

「お礼なんていいのに………」

「君にはいないの? 嫌いな人間とか、憎くて仕方がない人間とか」

「いや、それは………、いないことはないですけど」

「私が成仏できる算段がついたら、その人をここへ連れて来てよ」

「いや、でも………」

「まぁ、考えておいて」

「………はい」

 

 和泉はあまり気乗りしない返事をした。


「では、僕が協力するってことでいいですね」


 彼女は微笑み、コクっと頷いた。

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