第三章
3-1 調査報告 part3
和泉が再び屋上を訪れたのは、望月からアルバムを借りた翌日の放課後だった。屋上に出ると、どんよりとした空気が流れていた。厚い雲が空全体を覆っており、今にも雨が降りだしそうだ。
「おつかれ。もう用事は済んだのかい?」
彼女は和泉の姿を認めると、やわらかく微笑んだ。
「ええ、終わりましたよ。今日は、昨日の収穫を話しに来ました」
和泉はまず、中嶋との会話を順を追って説明した。脅迫状を書いたのは中嶋であること。中嶋の発言からそれに気づいたこと。彼の兄が阿澄から暴力を受けていたこと。そして香水とお父さんのこと。望月から聞いた話はまだ伏せておいた。
「君は、本当に中嶋くんの『脅されたり』っていう発言だけで、彼が脅迫状の送り主だと気づいたの?」
「そうですけど………」
「そうか………」
そう呟いた彼女の視線が揺れ動いた。何かを、懸命に考えている様子だった。しばらく沈黙が続いたのち、彼女の視線は、和泉の襟元にとまった。
「ねぇ、和泉くん。変なことを聞くようだけど、君の一番の望みは何?」
「一番の望み、ですか。それは、あなたを成仏させることですよ」
そう言う和泉の顔を、何とも言えない表情で彼女は見つめた。「どうしてそこまで自分のことを想ってくれるのか」「本当に心からそう思っているのか」、和泉のことを計り知れないといった表情をしている。
「あのさ、ちょっとだけ私に時間をくれないかな。わかった気がするんだ。この事件のこと。気持ちを整理する時間がほしい。二十分、いや十分でもいい。私を一人にしてくれないかな」
有無を言わさないといった雰囲気ではなく、切実なお願いのように、彼女は言った。
「わかりました。二十分後にまた来ます」
和泉は彼女の言葉に従った。彼女はきっと気づいている。阿澄が誰に殺されたのか。そして自分が何を隠しているのか。
和泉は今日、何もかも話すつもりでここに来ていた。覚悟はもう決まっている。決まっているが、こうして彼女と肩を並べて話していると、決心が揺らいでしまいそうだった。ずっとこのままでいたい気持ちと、和泉の中にある正義が、せめぎ合っていた。
彼女とまだ一緒にいたい。しかしここで彼女と同じ時間を過ごし続けることは、自身が許さなかった。早く彼女を成仏させてあげなければ。
今日で、何もかも終わる。二十分後、きっと彼女の言葉で何もかも暴かれる。
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