第13話 後日談・ファミレスにて

 とあるファミリー・レストランで三人で食事をすることになった。せっかく参加して撮影したものの、アップロードは禁止されてしまった。しかし、「何かの手違い」で誰かが流してしまうのは仕方ないんじゃなかろうか、と仲間内で話していた。

「いやー、でもよー、すげー雷雨だったな。あんな中で出かけるとはドウジぱねーわ。」

「おめぇらが来なかったから一人で行くハメになったんだろーが、反省しろー?」

「いやいやしゃーないって腹いてぇのはさー」「なー」

他の二人は悪びれた様子もない。カメラは没収されなかったし映像も確認できた。

(別に口約束だし、守らなくてもよくね?)

そう思ってトイレに立ったところで、見覚えのある顔とすれ違った。物覚えは良い方で、すぐあの執事とかいうじいさんだと気付いたが、尿意が我慢できず済ませることにした。

 テーブルに戻ると、先ほど座っていたところに執事サンが腰かけていた。

「な、なんだよ。あの件は終わったんだろ?」声が上擦る。こんな押せば折れそうな体躯のじいさんに何を怖気づくことがあるのか。

「エエ、ワタクシ共の悲願は達成され、解放も致しましたよ。それはそれとして、」前置きのように語ってからドンと拳をテーブルに叩きつけた。唐突に大きな音に驚いたのか、後ろにいたウェイトレスが客の座っているテーブルによろよろと寄り掛かった。「アレを、他に見せてはいませんよね? アレ。」

「や、やだなー。信用してくださいよ。怖い思いもしたンすから、やらねーっすよ。」

内心ではびくびくしていた。バレるはずがない。

(こいつらには見せたが、まさか俺に黙って流していたのか? そんなはずはない、いや…)

逡巡を気取られないようにしながら、相手を見る。そういえば、辺りが静かすぎる。

「お友達には眠ってもらいましたよ、エエ。ギャアギャア烏のように煩い方々の様でしたのでね。ついでに」見渡すと誰もがテーブルに突っ伏していた。「他の方『も』迷惑にならないように。」

ウェイトレスは顔面蒼白であり、にもかかわらず会計にいる男は知らぬ存ぜぬの無関心を装っていた。

「ワタクシどもの使命を邪魔するものは鉄槌が下りますので、そのつもりでいてくださいませ。」

(アイツらの注文したものに薬が? いや俺も飲んでいるはず。それなら、あれか? 一度味わったやつか…? こんな白昼のファミレスでもやるのかよ!?)

「自分たちの命が保証されているとはいえ、苦しませる方法はいくらでも存じ上げておりますのでね、そのつもりで、お互い不干渉で行きませんか、ネェ?」

くぐもった笑い声が聞こえたが、俺はよく理解できなかった。普通ならやらないことを相手は躊躇なくやる、外聞も気にせず露見しても握りつぶせる力があると誇示するためだけに、こんなことを。


 執事は手近なメニュー表を開き、チョコレート・パフェを頼んだ。「彼に。」ウェイトレスから震える手で俺の許に差し出されたそれを口に運ぶと、甘ったるい味が口に広がった。スプーンで掘り返すとカツンと本来なら入っていないものを見た。人形の眼球。俺はポケットに入れていたビデオカメラを床に叩きつけた。

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