第12話 人形ノ劇場

 結局、サナエは残ることに決めてくれたようだった。ようだった、というのはあの後すぐに俺は寝入ってしまい、それからのことは詳しくわかってないからだ。

 当主となったものはやることはそう多くないらしい。一日に書類に目を通してハンコを押すだけで月に億が舞い込んでくるウソのような世界に入り込んでしまったようだった。

 会社は辞めることになった。同僚からの手紙には「美味しい話があったから食いついてしまって悪い」と誤魔化して説明した。元よりそんなに仲は良くないが、先輩には悪いことをしたと気がかりはないではなかったが、徐々に薄れて行った。

 「当主の何よりの使命は世継ぎを残されることです。ハイ。」とサナエとの子を授かるようにせっつかれては居心地の悪い思いをしている。いざ作ろうとしてもできないというのはなかなかのストレスで、二人ともたまに口論してしまったりはするが、どういった名前にするかなど気の早いことも話し合ったりして仲直りした。

 ここでの生活は、悪くない。悪くないはずなのに、何かを、忘れてしまっているような気がしてならない。それは決まって夜になると、心の中に蠢いてくる。

 あの大量のこけしは何だったのか。人形はどこにしまわれたのか。帰った後の奴らはどうしているのか。

 気になりはするが、俺はもはや知る術がない。「当主は些事を気にせず邁進せよ」と掲げられた掛け軸の通りに、日々努力し次へ繋げていくのが「使命」なのだから。

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