第4話 雨中の金糸雀
「…この子はミィちゃんっていうんです。どこに行くのもこの子と一緒じゃないと私嫌なんですよね。何より人が好きでどこに連れて行っても喜んでくれるんです、ねぇミィちゃん?」
ピィピィと鳴くカナリアの入った鳥籠を人差し指で撫でつつ、雪乃ハジメと名乗った少女は聞き取りにくい声で何かを喋り続けている。
当日になり朝早く出立し、豪雨の中で一刻も早く邸宅を目指した俺とサナエより先にいたのは彼女だった。まさか最初に声をかけた相手がよもやこれほど個性的とは。ゴシックロリータの衣装を着ていて普段なら目立つものだが、この洋館においてはしっくりきていた。
ホールを見回すと肖像画がいくつもあり、調度品は埃をかぶっておらず、噂で聞いた幽霊屋敷のイメージとは程遠いものだった。人気(ひとけ)はしない歪さが奇妙を物語っていた。
「お、誰か俺らより先にいるんじゃねーか! 一番乗りかと思ってたのによ。」
玄関がぎぃと開かれ、ぞろぞろと数人が入ってきた。中には我らが悪友・野島ゴウタの姿もある。案内してきたのだろう。見慣れた四人組の他に新顔もいるがあちらは外部の人だろうか。ゴウタの仲間とはカラーが違っている。自然といつものメンバーとその他で分かれた。ゴウタは俺に「お前はこいつら、知ってるよな。」と言いながら、宮城ミヤジ、橋本タミ、横峯タカシ、鏡トウをざっくりと紹介した。こちらをみてニヤニヤしているが、集まってはヨロシクナイことをしでかしてきた仲間だろう。個人的には今更関わりたくない面子であった。
反対側の五人組を指さして「こちらはドウジさんと、」呼ばれた時に振り返り「ウッス」と軽く会釈したのち戻った。興味はなさそうだ。「他は近くのガッコのオカルト研究会グループのメンバー…らしい」
らしいとは何だ。ゴウタはさほど友人以外には興味は抱かないタイプだが、呼び寄せたんだから少しは責任感を持ってほしい。そのオカ研メンバーらはドウジの話に目を輝かせ傾聴している。なかでも一人は少し輪から外れているのが気になったが、サナエに呼ばれて聞きに行くのを止められた。
「ねぇよっくん。これで全員かな?」と裾を掴み訊かれるも、俺は数えていなかった。確か十五人集まるとゴウタから言われた気がするが。「さっき数えたら十三人なんだよね」
あと二人はまだ来ていないのか、ゴウタに問い質そうとしたところ、
ドン、と音がして辺り一面が闇に包まれた。
「ようこそいらっしゃいました、お客様。」いきなり目の前に何かがいて、喋っている。それは分かるが急な事態で目が慣れない。「ワタクシは当館の主人にございます。これから皆様方にはゲームをしてもらいます。ナニ、簡単なものです。隠れたワタクシを見つけるか。翌朝まで生き残るかだけです」
それから走り去る音が聞こえたと思ったら離れた扉の開閉音が鳴り、先ほど消された灯りが点いた。
「おい、一体何なんだよ!」とゴウタを問い詰める者、スマホを確認する者、特殊な状況に興奮する者と様々な反応だった。サナエは、と一瞥すると手を握ったまま何かを見ていた。視線の先にある肖像画が、目から血を流していた。
「悪趣味だな。」
どこか見覚えがあるような顔にも見え、吐き気がした。
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