第79話 エピローグ(5)『白の女王』と『黒の勇者』

「俺はあの戦いの中で、己の死を覚悟した。そしてその瞬間、アストレアの顔が浮かんだんだ。そして思い至った、俺はアストレアが好きなんだってことに」


「はぁ、そうですか。リュージ様は私が好きなんですね。なるほど――――――って、うえぇぇっ!? ちょ!? ちょちょ!? そ、そそそそんないきなり好きだなんて言われてもですねっ!?」


 いきなり何の前触れもなく、真正面から見つめられながらこれ以上なく好意を伝えられたアストレアは、胸が激しく高鳴ってしまうのを止められないでいた。


 心臓がドキドキと大きな音を立てているのが、自分でも分かってしまう。

 その顔は茜色に染まった夕焼け空のようにまっ赤だった。


「俺はアストレアが好きだ」


 予想だにしなかった突然の告白に乙女心を高鳴らせるアストレアに、リュージはもう一度、愛の告白を繰り返した。


 そのどこまでもまっすぐな物言いに、アストレアはもう胸がキュンキュンときめいてときめいて、しょうがなくなってしまう。


 リュージときたら、絶世の美女と言われたユリーシャと同じ血を引いているだけあって、かなりのイケメンだ。


 しかも今までそれを著しく減点していた目付きの悪さや、つっけんどんとした口の悪さがすっかりなくなって、それはもう優しくて穏やかな笑顔で言ってくるのだから、タチが悪かった。


 そんな風にリュージから情熱的に思いを告げられたのだから、アストレアが胸をたかぶらせてしまうのも、これはもう無理のないことだろう。


 オレ様リュージに散々飼いならされた後の、これでもかというお姫様プレイ。

 ある種のギャップ萌えというやつである。


「えっと、あの――」

「俺はアストレアが好きだ。アストレアは俺のことをどう思っているんだ?」


 動揺するアストレアに、リュージはさらにもう一度好意を伝え、アストレアの気持ちがどうなのかを問いかける。


「だからその、急に言われてもですね? その、あの、えっとですね?」

「アストレアは俺のことは嫌いか?」


「全然嫌いではないんですけど、むしろ好きかなーとは思うんですけどね?」


「よかった、これで晴れて両思いだな」


「でもその、あまりに急すぎるといいますか、私にも心の準備というものがいりましてですね――」


「俺の復讐は終わった。だがアストレアの国政改革はまだ道半ばだ。だからこれからは、俺の力をアストレアのために役立てたいと思っている。大好きなアストレアのために、俺が師匠から受け継いだ神明流を使いたいんだ。これが2つ目の理由だ」


 覚悟が決まったリュージは強かった。

 照れることなく、アストレアが好きだという気持ちを真正面から何度も伝える。


「だからその、私にも色々と準備が必要でして! それにあの、私ってば一応、一国の女王なわけですし、いろんなしがらみとかもあったりで、簡単に『はい』とは言えない身と申しますか!」


「もちろん分かっている。いつの時代も、王族の結婚は最強の政治カードだしな。今すぐどうとは言わない。何より今は国政改革を成し遂げるのが先だ。最終的な返事はそれが終わるか、ある程度、道筋がついてからで構わない」


「……本気、なんですね? リュージ様は、本気で私とともに歩んでいくおつもりなんですね?」


「ああ。俺の剣をアストレアのために使わせてくれ」


「分かりました。その条件を呑みましょう」


 アストレアがしっかりとリュージの目を見て言った。

 好きとかそういうことは一旦置いておいておく。


「交渉成立だな」


 リュージが差し出した右手をアストレアが両手で取り、二人の視線が絡み合うように交わる。


 それは2人が初めての契約した時とまったく同じやり取りだった。


「ふふっ、あの時と同じですね」

 それがどうにもおかしくて、アストレアは思わず笑い出してしまう。


 リュージはそれに軽口をたたくでもなく、優しく微笑みながら頷いたのだった。



 とまぁ、そんなこんなで。


 のちに後継者争いから戦乱の時代を招いた神聖ロマイナ帝国と、そこに巣くう大罪魔人たちを滅ぼし、シェアステラの旗の元に一大連邦国家を作り上げた清廉潔白な『白の女王』アストレアと。


 偉大なる女王アストレアに仕えた史上最強の剣士、『黒の勇者』リュージ。


 これはリュージの復讐の物語であると同時に、そんな2人が紡いだ一番最初の出会いの物語――。




【改稿版】クロノユウシャ「泣いて喚いて許しを乞うても、今さらもう遅い」(全方位復讐譚)


 ―Fine―



―――――――


 この度は10万字を越える長編をお読みいただき、誠にありがとうございました。


 あたたかい応援をいただき、感謝の言葉しかありません。

 最後までお読みいただいたこと、重ねてお礼申し上げます。


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 またこの後、


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・アフターエピソード(全5話)


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 よろしければこちらもご覧いただけましたら幸いです!(≧▽≦)


 それではまたどこかでお会いしましょう(*‘ω‘ *)

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