第9話 復讐完了1:ライザハット王

「卑怯者だって? お前みたいな人を人とも思わない悪逆非道な人間のクズから、そんな言葉をかけられるとはな。ジョークとしても笑えないぜ?」


「許さんぞ……絶対に、許さんぞ……」


「ふぅん、ああそう。おっとそうだ、一つ言い忘れていたことがあったから言っておこうか。お前を殺したら、次はお前の娘の番だ。すぐにあの世に送ってやる」


「なん……だと……? ま、待て、頼む……そ、それだけは、勘弁してくれ……フレイヤだけは助けてくれ……あの子はワシの宝、なのだ……」


 娘の番と言われ、ライザハット王が顔色を変えた。


「くっはっ、あはははははは!」

「な、にが……可笑おかしい……?」


「そりゃ可笑しいってなもんだろ? 姉さんもあの時きっと助けを求めたはずだ。あんたはその時に姉さんを助けたのか? 自分ができないことを他人にやらせてんじゃねーよ」


 リュージは呆れたようにつぶやくと、


「うう……頼む。頼む……。頼む……」


「今さら泣いてわめこうがもう遅い。あの世で姉さんに懺悔ざんげしな」


 もう用はないとばかりに、床に横たわりながら必死に懇願するライザハットの頭を強く蹴り飛ばした。


 ゴキッと首の骨が折れる音がして、それがとどめの一撃となってライザハット王は完全に生き絶える。


 王座の間は静寂に包まれ、命ある者はリュージ一人だけとなった。


「姉さん、パウロにい。見ててくれた? まずは1人目だよ」


 刀を鞘に戻したリュージは自分の両手首を――正確にはそこにある一対のミサンガを見た。


 右手に巻いた赤いミサンガは、婚約した時にパウロが姉に贈ったもの。

 左手に巻いた青いミサンガは、お返しに姉がパウロに贈ったものだ。


 日々の暮らしで精いっぱいの庶民は、王侯貴族や大商人みたいに婚約指輪を買うなんてことは、逆立ちしたってできはしない。

 だから代わりに、身に付けられる色違いで同じ小物を贈りあうのが、古くからの習わしだった。


 そしてその、叶うことのなかった2つの婚約の証は、今はリュージの大切な大切なお守りになっている。

 どんな辛い時でも、心がくじけそうなときでも、このお守りの存在がリュージの心を強く奮い立たせてくれるのだ。


 少しだけ感傷に浸ってから、リュージは思考を冷徹な復讐者のそれへと引き戻した。


「いや、1人じゃないか。正確にはあの場にいた上流貴族も含めれば11人か? まぁ数はいいさ。どっちにしろ姉さんとパウロ兄の人生を奪った関係者は、俺が全員皆殺しにするんだからな。遅いか早いかの違いさ」


 あの事件に関わった全ての関係者に復讐をする。

 死をもってつぐなわせる。


 それがあの日、リュージが定めた絶対にして唯一無二の生き方ルールだった。


「でもしまったな。あの上流貴族の奴らも、もっと自分の罪を理解させてから殺さないといけなかったってのに」


 リュージの力をもってすれば、殺すだけなら簡単だ。

 しかし己の罪を正しく理解させてから殺さなければ、復讐の意味が薄れてしまうとリュージは考えていた。


「王座の間でライザハット王の顔を見たら、込み上げてくる怒りで他の奴らはただの邪魔者にしか思えなかったんだよな。ついあっさりと殺しちまったよ。失敗失敗。感情に任せちゃいけない。ただ殺すだけじゃ意味がないんだ。次はもっと上手くやらないと」


 などと反省の弁をつぶやきながら、王座の間に残された無数の亡きがらには目もくれずに、リュージは玉座の間を後にして、次なる目的地へと足を向けた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る