第3章 第二王女フレイヤ
第10話 フレイヤ王女
王座の間を後にしたリュージは、次に王女フレイヤの部屋へとやってきた。
途中、行く手を阻む近衛兵に何度か出くわしたものの、もちろん瞬殺している。
リュージはたとえ相手が復讐とは無関係であっても、己の目的を阻もうとするのであれば容赦はしない。
いや、この腐りきったシェアステラ王国に勤めているというだけで、リュージにとっては完全に無関係ということにはなりえなかった。
余談はさておき。
「ここがフレイヤ王女の部屋だな。金の装飾とドアノブとは、また成金趣味なこって」
リュージは一見しただけで金がかかっていると見て取れる豪奢なドアの、厳重な鍵のかかった黄金のドアノブを無理やり捻ると、あっさりと鍵を破壊してドアを開いた。
鍵のかかったドアノブを捻り開けることくらい、7年かけて鍛え上げた細マッチョな身体に加えて、神明流・初伝『剣気発生』によって身体能力を大幅に向上させているリュージにとっては、造作もないことだ。
強引に入ったフレイヤ王女の部屋は、これまた見るからに高そうな家具や調度品が並んだ、豪華極まりない部屋だった。
もちろんリュージにはそういった高級品の目利きや鑑定はできないので、ただの推測だ。
漠然と、あの美しい装飾がされたツボ1つで庶民の一家が10年20年遊んで暮らせるんだろうな、くらいの認識だったが、リュージのその認識はおおむね的を射ていた。
フレイヤ王女は、それはもう金遣いが荒いことで有名だった。
「何者です! 王女の部屋に勝手に入るなどと無礼な! それに鍵はどうしたのですか!」
突然乱入してきたリュージに、部屋の主のうら若き女性が非難の声を上げる。
「鍵は開いてたよ、普通に開いたのがその証拠だ。それよりフレイヤ。俺は君を助けにきたんだ。ここは危険だから早く逃げよう」
リュージはとても優しい声と、場違いなほどににこやかな笑顔でそう言った。
街一番の美人と評判だった亡き姉ほどではないが、笑った時のリュージの顔は見る者すべての心を解きほぐすイケメンスマイルになる。
「あ、あなた様は?」
そしてそれはフレイヤも例外ではなかった。
リュージのイケメンスマイルに頬を染めながら、フレイヤは恥ずかしそうに小さく呟いた。
「俺はリュージ、さすらいの剣士だ。暴徒の混乱に乗じて参上した。ここにいたら殺されてしまうぞ、早く俺と一緒に逃げるんだ」
すでに暴徒が王宮内に乱入しており、この部屋にも騒ぎの声が近づいてきているのが肌で感じられる。
「な、なんと! リュージ様とおっしゃいましたね。あなた様の助力に、心からの感謝を捧げますわ。ですがお父さまがまだ――」
「君のお父さんならもう危険はないよ、先に逃がしてあるから心配はいらない。だから今は自分のことだけを考えるんだ。さぁ俺と来るんだ」
リュージが伸ばした手をフレイヤはそっと握った。
リュージはそのままフレイヤを引き寄せると、お姫様抱っこで抱きかかえる。
「あ、あの……」
「どうしたフレイヤ?」
「いえ、なんでも、ありませんの……」
お姫様抱っこされながら優しく名前を呼ばれて、恥ずかしさと嬉しさでフレイヤは胸のドキドキが止まらなかった。
ドキドキし過ぎてどうにかなってしまいそうだった。
(なんて硬くて男らしい素敵な胸板なのかしら?
わたくしドキドキが止まらないわ、頭がフットーしちゃいそう!
もしかしてリュージ様にわたくしの胸の鼓動が聞こえちゃってるかも!
きゃっ、恥ずかしい!)
などと考えるてしまうくらいに、フレイヤはリュージにどうしようもなく一目惚れしてしまっていた。
「でもよかったです、お父さまもリュージ様が助けてくれたのですから。あとで褒美を与えて下さるように、お父さまにお願いしないと」
「礼には及ばない。当然のことをしたまでだ――と、そう言えばもう一人王女がいただろう。君の2つ上でアストレアと言ったか。彼女はどこだ?」
「え、あの、アストレア姉さまは、その、えっと……」
2つ年上のアストレア王女のことを聞かれたフレイヤは、なにか後ろ暗いことでもあるのか、言いにくそうにもごもごと言葉を濁した。
「アストレアはどこにいるんだい? どうにかして彼女も助けたいんだが、見当たらない。知っているんだろう? もったいぶらずに教えてくれ」
しかしリュージが爽やかスマイルとともに、正義感たっぷりの真剣な口調で言うと、
「あ、アストレアお姉さまは、北塔の最上階に、その、幽閉されておりますの……」
フレイヤは小さな声でつぶやくように答えた。
ここで正直に言わないとリュージに嫌われてしまうと、イケメン大好きな恋愛脳の軽フレイヤは思ったのだ。
「幽閉だって?」
リュージが尋ねると、
「アストレア姉さまはお父さまに逆らうからですわ。反主流派とも仲が良くて。だからその、余計なことはしないようにって、北塔の最上階に幽閉されたんです」
フレイヤは小さな声で説明をした。
「そうか、北塔の最上階に幽閉されているので間違いないな?」
「は、はい。ですがリュージ様、アストレア姉さまはその、目が、少々不自由なのですわ。だから今から行ってもとても助けられるとは――」
「それはフレイヤ、お前が気にすることじゃない。俺は俺のやるべきことをやる、それだけだ」
「ああっ! リュージ様はなんと素敵な殿方なのでしょう!」
フレイヤ王女はお姫様抱っこされながら、うっとりとリュージの顔を見上げた。
どこか陰のある憂いを含んだ瞳が、フレイヤ王女の心をとらえて離さない。
何よりすごくイケメンだ。
(ああ、これぞまさしく白馬の王子様ですの!
わたくしとリュージ様は今日、運命の出会いを果たしたのね。
もうわたくしは決めました、リュージ様と一生添い遂げるんだってことを。
あ、でもリュージ様のお顔って、どこかで見たことがあるかも?
何年か前にこういう綺麗な顔立ちを見たような、どこだっけかな?
……まぁいいや。
どうせたいしたことないでしょ)
とまぁ窮地から助け出されたこともあって、フレイヤ王女はもう、どうしようもない程に、完膚なきまでにリュージにメロメロだった。
そんなピンク色の思考に染まったフレイヤ王女を抱きかかえたリュージは、なぜか暴徒たちが多数余っている王宮の中庭へとやってきていた。
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