第11話 復讐はただ殺すだけでは意味がない。 相手に理由を分からせて殺すからこそ復讐の意味がある。

 王宮の中庭には既にたくさんの群衆が集まっていた。


 そして未だ抵抗を続ける一部の勤勉な兵士たちを、多勢に無勢で叩きのめしながら、次から次へと王宮の中へとなだれ込んでいっている。


 リュージはそんな群衆の真っただ中にフレイヤを下ろした。


「あの、リュージ様? どうしてこのようなところで、下ろしてくれたのでしょうか?」


 綺麗な真っ白な人差し指を口元に添えて、フレイヤは不思議そうに小首を傾げる。

 しかしリュージはそんな彼女に視線を向けることもなく、大きな声を張り上げて周囲に向かって叫んだ。


「お前らよく聞け! こいつはライザハット王の娘のフレイヤ王女だ! どうだ、実に美しい娘だろう!」


「りゅ、リュージ様? いったいなにを――」

 突然大声を上げたリュージに、フレイヤ王女は隠せない。


「フレイヤ王女だって?」

「あの贅沢三昧で有名な王女か?」


 リュージとフレイヤに、暴徒たちの視線が一手に集まった。


「そうだ! お前らからしぼり取った血税で、自分だけ贅沢の限りを尽くしてきた女がこいつだ!」


「りゅ、リュージ様? あの、さっきから急になにを言って――」

 思いもよらない展開にフレイヤはひどく混乱してしまっていた。


(いったい何が起こっているの?

 リュージ様はわたくしを逃がそうとしてくれているのですよね?

 なのにどうして、わたくしがここにいるのだと大きな声でバラしてしまうのでしょうか?)


 しかしリュージは、あたふたするフレイヤなんてお構いなしに言葉を続けた。


「お前らの娘が母親のお下がりを着て、新しい服も買えずに我慢していた時、こいつは新しいドレスを次々に買い替えていた!」


「なんてやつだ!」

「許せない!」

「殺してしまえ!」


 フレイヤに向かって次々と群衆からの罵声が飛んでくる。


「ひっ――!?」

 四方八方から向けられる敵意のこもった視線に、フレイヤは完全に恐怖で足がすくんでしまっていた。


「お前らの中には高すぎる税金を払えなくて、大切な娘を泣く泣く商人に売ったやつもいるはずだ! お前たちの娘が娼館に送られて知らない男どもの相手をさせられていた時、こいつはのうのうとパーティで貴族や大商人の子息たちと遊び惚けていた!」


「くっそぉ、許せねぇ!」

「お前たちのぜいたくのために、俺の娘は……!」

「同じ目にあわせてやる!」


「りゅ、リュージ様! どうしたというのですか! もうやめてください!」


 すがるようにリュージの手を取ろうとしたフレイヤを、リュージは無言で突き飛ばした。

 フレイヤは尻餅をついてしまい、スカートがめくれて精緻なフリルがたくさんついた高価な下着があらわになる。


「きゃっ!? み、見ないでくださいまし!」


 男たちの不穏な視線が自分の股間に集中していることを察して、フレイヤは顔を真っ赤にしてスカートの裾を戻した。


「さぁ! 今ここにその元凶の女がいるぞ! ほら、どうしたお前ら! ここには誰もこいつを守る者はいない! お前らの好きにしていいんだぞ? 積年の恨みを晴らす絶好の機会がやってきたんだ、何を呆けてるんだ!」


 そこで、中庭に来てから初めてリュージがフレイヤの顔を見た。

 しかしリュージの顔を見たフレイヤは、驚きと恐怖に身をすくませるしかなかった。

 なぜならリュージはイケメンスマイルから一転、悪魔のような憤怒の瞳をフレイヤに向けていたからだ。


 リュージが神速の抜刀術を放った。

 斬り裂かれたフレイヤのドレスがスルリと脱げ落ちる。


 神明流の免許皆伝を持つリュージの絶剣技にとっては、身体を傷つけずに服だけ斬り裂くことなど朝めし前だ。


「きゃぁっ!?」


 公衆の面前で全裸にされてしまったフレイヤは、耳や首すじまで真っ赤にしてしゃがみ込んだ。


 両手で必死に胸と股間を覆って隠しているものの、真っ白な肌や隠し切れない大きな胸、美しく形のいいお尻は、周囲の男たちの性欲を否が応でもそそってやまない。


 一瞬の静寂の後、


「やってやれ!」

「あの女を犯せ!」

「あいつのせいで俺の娘は娼婦に落とされたんだ!」

「娘のかたき討ちだ!」

「犯しつくしてやる!」


 せきを切ったように男たちがフレイヤへと殺到した。

 フレイヤを犯そうと我先にと襲い掛かる姿は、久方ぶりの獲物に群がる腹をすかせたハイエナの群れのようだった。


「ぐっ、あっ、リュージ様、助けて、ひぎぃ、あぐっ、やめなさい、そのような汚らしいものをこのわたくしに近づけるなどと、あぐ、うっ、えぐっ、げほ――リュージ様、どうして……こんな……」


 両手足を掴まれて身動きをとれない状態で身体をまさぐられながら、目だけをリュージに向けて懇願するように真意を問うフレイヤ。


「ははははっ、なんでだと? 姉さんが受けた辱めを、今からお前も味わうんだよ。因果応報ってやつさ」


「リュージ様の、お姉さま……?」


「7年前の夏、俺の姉さんはこの国に視察に来た神聖ロマイナ帝国の皇子に犯され、お前の父であるライザハット王に凌辱され、貴族どもに汚され、兵士たちにも輪姦されて、婚約者まで殺されたことを知って自殺した」


「7年前……たしか神聖ロマイナ帝国のカイルロッド皇子がいらして……そう言えばその時に町娘を一人無理やり連れ込んで……でもわたくしにはそんなの関係ない……」


「関係ないだと? ならお前にも分かるように説明してやるよ」


「え……?」


 復讐はただ殺すだけでは意味がない。

 相手に理由を分からせて殺すからこそ復讐の意味がある。


 リュージは待ってましたとばかりに、種明かしを始めた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る