第50話 老近衛騎士
セルバンテス大公に罪の重さを存分に理解させた(=なぶり殺した)リュージは、
「ふぅ……」
復讐の達成感とともに、復讐をしたとて失われた大切な人は決して戻ってこないという現実をまたもや再確認し、やるせない気持ちを吐き出すように小さくため息をついた。
太閤の間を後にするべく
と、そこへ、
「セルバンテス大公閣下が――!?」
「なんということじゃ!」
「それだけではないぞ、重鎮の御方々まで皆殺しにされておる!」
「なんとむごい殺され方だ……」
「なっ、用心棒のフロスト殿まで――!」
リーダーの老騎士に率いられた、近衛騎士の一団12名が大公の間へとやってきた。
近衛騎士だけが身に着けることを許された美しい装飾のなされた白銀の鎧を、全員が装着している。
別の場所を警備していた彼らの部隊は、大公の間の騒ぎを聞きつけて急ぎ馳せ参じたのだ。
そして唯一の生き残りたるリュージの行く手を阻むようにして、大公の間の入り口に立ち塞がった。
「この惨状はお主がやったのか?」
代表して声を発した老騎士の問いかけに、
「そうだ、俺が殺した。姉さんとパウロ兄のかたき討ちのためにな」
リュージは静かに答えた。
「復讐か?」
「やられたらやり返す。誰もが持つことを許された当然の権利だろう?」
「偽女王アストレアの放った刺客かと思うたが、違うのだな?」
「アストレアは刺客を使って暗殺をするような性悪じゃねぇよ」
その言葉に、老騎士は納得するように頷いた。
セルバンテス大公の間近にいる近衛騎士だからこそ、両者の評判の違いは誰よりも身に染みて知っていたからだ。
「しかし偽女王アストレアのことを、まるで知り合いのように言うのだな? やはりアストレアの手の者ではないのか?」
「こんなのは子供でも知っているただの一般論さ」
「なるほど。たしかにそうだ」
「ところで、そこに立たれていると通れないんだが?」
「悪いがお主を通すわけにはいかぬ。復讐とはいえ我が主君を討った者を、近衛騎士たる我らが、みすみすと逃がすわけにはいかんのでな」
老近衛騎士の言葉を聞いた騎士たちが、リュージを半円状に囲むように動いた。
全員がリュージへの敵意を剥き出しにしている。
しかしリュージは向けられる敵意を意に介すこともなく、
「セルバンテス大公はどうしようもないほどに愚かで、救いようがないほどに悪人だった。お前らがそうまで忠誠を尽くす価値は、これっぽっちもないと思うんだけどな?」
「騎士道とは忠義をもって道と為すなり」
老騎士がリュージの言葉尻に被せるようにして発した、その教え諭すような上から目線の言葉に、
「はぁ?」
ここまで理性的に振る舞っていたリュージが、露骨にイラっとした顔を見せた。
「たとえ愚かであっても、どれほど悪であっても、剣を捧げたからにはセルバンテス大公閣下に忠誠を尽くすのが真の騎士道というものなのだ。それが近衛騎士であるならなおさらのこと」
リュージの心境の変化に気付くこともなく、老騎士はまるで詩を紡ぐがのごとく朗々と言葉を続ける。
それがリュージの怒りを、沸々と煮えたぎらせているとも知らずに。
「へぇ、それで後を追って死のうってか? 言っておくが、お前ら程度じゃ束になっても俺には触れることすらできないぜ?」
「凄腕のフロスト殿を負かすのであれば、おそらく我等ではとうてい歯が立たぬであろうな」
「なのに俺と戦って無駄に命を散らすと?」
「それもまた騎士の道なのだ。諸君! たとえ
老騎士が剣を抜いて突き上げると、この展開を予想していたのか、残りの騎士たちも呼応して次々と抜剣していく。
唯一、老騎士のすぐ隣にいた一番若い近衛騎士だけは──全くの想定外だったのか──完全に出遅れてしまい、一人だけ遅れて焦ったように剣を抜いた。
「騎士の道ねぇ。はっ、くだらねぇな」
しかしそれを見たリュージは吐き捨てるように言った。
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