第49話 復讐完了6:セルバンテス大公

「さてと。同じ『気』の使い手との戦闘だし、せっかくだからお前に見せてやるよ。瞬間的に高められた『気』が、どれほどの力を出しうるのかをな」


 リュージはそう言うと『気』を激しく猛烈に、煉獄の炎柱のごとく燃えたぎらせていく!


「なっ!? バカな! こんな力が――」


 フロストはそのあまりに強大な力を目の当たりにして、息をのんだ。


「逃げるか、せめてしっかり防御しろよ? まぁ今のお前にはもう、かわすことも防ぐこともできないと思うけどな」


「まさか、まさか君は! 今まで本気を出していなかったとでもいうのか!?」


「ははっ、いつから俺が本気を出していると錯覚していた?」


 弱った獲物に最後のトドメを刺そうとする獰猛どうもうな肉食獣のごとく、リュージの殺意が猛々しく高まっていく。


「ぐ、ぐぅっ!」


「その目にしかと焼き付けろ――神明流・皆伝奥義・七ノ型『天のイカズチ』」


 リュージは身体から沸き起こる膨大な『気』を刀に込めると、鮮烈なる踏み込みからの上段斬りをフロストに叩き込んだ。


 それは天から降る雷のごとき、激烈なる打ち下ろしの一閃。


 分厚い鉄の板すら粉々に粉砕するその破壊の権化たる一撃は、フロストが防御せんと最後の力を振り絞って掲げた剣ごと、その身体を文字通り真っ二つに叩き斬った。


「――――」

 フロストは驚愕に大きく目を見開いたまま、声をあげる間もなく絶命した。


 そして絶対の信頼をおいていた凄腕用心棒のフロストが、人体真っ二つにされたのを目の前で見せられたセルバンテス大公は、


「あっ、ああ、あひ……」

 チョロチョロチョロ――。


 あまりの恐怖についに失禁してしまった。


 完全に腰が抜けてしまっていて、立ち上がることも出来ずにジョロジョロと情けなく小便を漏らすセルバンテス大公。


 そんなセルバンテス大公に、フロストという最後の障害──と言うほどでもないが──を払いのけたリュージが悠然と近づいていく。


「ひっ、あひっ、ひひっ、あひゃひっ――」


 セルバンテス大公は極限の恐怖によって、もはや人語にならない音を発するしかできないでいた。


「まったく、その腰抜けっぷりで、よく新たな王になろうだなんて思ったな? あまりに臆病過ぎて、呆れる以外の感想がないぜ」


「ひっ、ぶひ、えへ、あひゃ……」


「アストレアを小娘だと侮ったのか? 言っておくがアストレアはお前みたいな小物なんかとは比べるのも失礼なほどに、どっしりと肝が据わっているぞ?」


 リュージは吐き捨てるように言うと、たぎる怒りとともに刀を振りおろした。

 刃がセルバンテス大公の二の腕を深く斬り裂く。


「ぎィゃぁぁぁぁぁァァァっっっ!!」


 セルバンテス大公が大きな悲鳴を上げた。

 しかしその傷は実のところ、致命傷には程遠い。


「おいおい、おおげさなんだよ。そこまで痛くはねえだろ? まだちゃんと手はくっついてるじゃねーか」


「痛い、痛い、いたいいたいいたいぃぃっ!」

「子供じゃねえんだ、何度も言わなくてもわかるっつーの」


 リュージはさらに刀を振るって、セルバンテス大公の身体を斬り刻んでいく。


「あっ、あっ、あひっ、やめて――」

「OK、OK。お前が死んだらやめてやる。ま、簡単には殺さないけどな」


「い、いひ――っ」


「お前には痛みと絶望をこれでもかと味わってから死んでもらう。姉さんとパウロ兄が受けた心と身体の痛みを! 俺が今からこの刀で! お前の身体という身体に刻み込んでやるからよ!」


「お、おねがいだ。もうやめてくれ……おねがいだ……」


「泣こうが喚こうが許しを乞おうが、今さらもう遅い。決して楽には死なさねえから、今から覚悟しとけよ?」


 リュージはその言葉の通り、痛みと絶望をセルバンテス大公の身体に何度も何度も、怒りの刃でもって刻み込んでいった。


「あひっ、ぎゃっ、ああ”っ、いがぁっ、ぎゃぁ――っ」


 セルバンテス大公にできたのは、ただただ赤子のように泣いて喚くだけ。


 それからしばらくの間、あまりに連続して痛みを与えられ続けたせいで、セルバンテス大公はいつの間にか意識を失っていた。

 既に出血がひどく、身体中を己の血で赤く染め抜いている。


 そしてまともな反応を返さなくなったところで、セルバンテス大公は用済みと言わんばかりに容赦なく心臓を突かれて、惨めにこの世を去った。

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