第47話 用心棒フロスト
「何がそんなにおかしい? 恐怖で頭が狂いでもしたのか?」
「ハハッ、バカな奴めが! 知らぬようだから教えてくれるわ! ワシには影武者が何人もおるのだよ! であれば、余を殺したとして、余が本物のセルバンテス大公であるという確証をどうやって手に入れる?」
リュージを見下すような顔で、勝ち誇ったように言うセルバンテス大公。
「ああそういうことか。ってことはまだ、敗軍の将から報告を受けていないのか。本来なら何にもまして最優先で上げないといけない情報だろうに、お前に似て部下もマヌケぞろいなんだな」
それをリュージは鼻で笑って返した。
「なんだと? それはどういう意味だ?」
「安心しろ、お前の影武者11人は全員きっかり殺してあるから、お前がいちいち気に病む必要はないさ」
「……は? 影武者11人を全員きっかり殺しただと……?」
リュージの言葉に、セルバンテス大公の目がキョトンとなった。
「仮にお前が影武者の1人だったとしても、そのことにはもう何の意味もないんだよ。12人の『セルバンテス大公』を全員殺せば、俺の目的は達成されるんだからな」
「な、なにを言って――」
「おいおい、言葉が理解できないのか? 影武者は11人とも全員殺したって言ってるんだよ。雁首揃えてのこのこ戦場に出て来てくれて助かったよ。イチイチ一人ずつ探し出して、順番に殺して回る手間が省けたってなもんだ」
「な……に……」
セルバンテス大公の口が、空気を求める魚のようにパクパクと声にならない声を上げる。
「つまりお前は12人中の12人目なんだよ。だから影武者だろうが本物だろうが、もう関係ない。最後に残ったお前を殺せば『セルバンテス大公』は死んだことになる」
「そんな……まさか……」
「おおかた、本物がいるという真実味を持たせるために、戦場に影武者を全員集めたんだろうが、完全に裏目に出たな」
「く……ふ……」
「そういうわけだ。無事に疑問も解けたところで、お前には死んでもらおうか――ちぃっ!?」
リュージは言葉の途中で舌打ちをすると、即座に身をひるがえして飛び退いた!
というのも――、
「せやあっ!!」
その直後、突如として大公の間に入ってきた何者かが、人間とは思えない速さで一気に間合いを詰めると、リュージに向かって勢いそのままに剣を振り下ろしてきたからだ!
ギィンッ!
刀と剣のぶつかる鈍い金属音がして。
ギリギリのところでリュージはその強烈な打ちこみを受け流して逸らし、即座にバックステップをして、謎の侵入者から距離をとった。
「ほぅ、今のを受けて流しますか。一人で乗りこんでくるだけあって、なかなかどうしてやりますね」
強烈な一撃を放った端正な顔立ちの優男が、柔和な笑みを浮かべた。
「誰だてめぇは。いきなり出てきて邪魔してんじゃねぇぞ。いや、そんなことよりまさか今のは『気』か?」
同じく『気』を使う剣士として、リュージは乱入してきた剣士の『気』の発露を感じ取っていた。
「ほぅ、この力は『気』というのですね。自然と使えるようになったので名前は知りませんでしたが、今のを防いだことといい、どうやらあなたも私と同じ力を使えるようだ。ここに来るまでに死体の山が積み上がっていたのにも納得です」
「
あと一歩のところで復讐の邪魔をされたリュージの怒りが、マグマのように煮えたぎっていく。
「それはもちろん。私――フロスト=イングウェイは、セルバンテス大公閣下の雇われ用心棒ですので」
「雇われ用心棒だと?」
「ええ」
フロストがにこやかな笑みを湛えながら、優雅に頷いた。
もしここに若い女性がいればキャーキャーと黄色い声をあげること間違いない素敵な仕草だったが、残念ながらこの場には闘いに身を投じる男と、臆病者の大公しかいはしなかった。
「ハハハ、バカめが! 余はお前と会話をすることでフロストが駆けつける時間稼ぎをしておったのだ! それにまんまと乗せられおって! さぁフロスト! こいつを殺せ! こんな時のために高い金を払って雇っておるのだからな! 絶対に生かして返すでないぞ!」
用心棒の到着で気が大きくなったのか、セルバンテス大公はリュージを指さしながら、麻薬でもやってるかのようなハイテンションで声高に命令する。
「そういうことみたいだから、狼藉者くん。だいぶん派手にやったみたいだけど、ここまでだ。君には死んでもらう」
「お前こそ、死にたくなければそこをどけ」
「おやおや、なかなか血気盛んじゃありませんか」
「事実を言ったまでだ」
「事実ときましたか、なかなか言いますねぇ。どこまでも向こう見ずで自分を過信してやまない、いやはや若いとはいいものです」
「フロスト、無駄話はいい! とっととそのバカを始末するのだ!」
「かしこまりました大公閣下」
そのやりとりを見て、
「はっ、ははははは――」
今度はリュージが大きな笑い声をあげた。
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