第46話 セルバンテス城

 当初5000人を超えていたセルバンテス大公軍は、初戦の大敗と敗走中の離散によって、今や2000人を切るまでにその数を減らしていた。


 この結果を受けて、病気やらなにやらともっともらしい理由を付けて出兵を拒み、様子見の中立を決め込んでいた地方貴族たちは、こぞって新女王アストレアに恭順の意を示した。


 そして少しでも新女王に忠誠心をアピールしようと、東部の領地に向かって逃げるセルバンテス大公軍を、行く先々で激しく攻め立てたのだ。


 セルバンテス大公領は広大である。

 さらには彼に味方した貴族たちの領地もある。


 戦後に行われるであろう論功行賞を考えれば、たとえ趨勢すうせいの決した今からであっても、勝ち馬に乗らない理由はなかった。


 しかもそれだけでない。

 当初はセルバンテス大公派だった貴族たちまでもが次々と寝返っては、満身創痍で敗走するセルバンテス大公の本軍に弓を引いたのだ。


 四面楚歌となった主亡きセルバンテス大公軍は4日をかけて、ほうほうの体で東部のセルバンテス大公の本拠地へとたどりついた。


「まさに烏合の衆だな」


 そんな惨めに潰走かいそうするしかできないセルバンテス大公軍に、リュージは素知らぬ顔で紛れ込んでいた。


 逃げることだけを最優先にし、ろくに部隊編成もなされていないセルバンテス大公軍に紛れ込むのは、リュージにとっては赤子の手をひねるよりも簡単だ。


 そして到着後すぐに、リュージはあらかじめ目を付けていた、自分と背格好のよく似た部隊長を一人殺して何食わぬ顔で入れ替わると、混乱を極めるセルバンテス城の内部に正面から堂々と入城した。


 悠然と城の中を歩くリュージを見とがめる者はいない。


 来たるべき籠城戦に備えて慌ただしく動き回る勤勉な兵士たちや、隙を見ては金目の物を持って逃げ出そうとする大公を見限った兵士たちで、それどころではなかったからだ。


 貴族たちは貴族たちで、徹底抗戦するか、それとも降伏するかで激しく議論をかわしている。


 喧騒けんそうで溢れかえったセルバンテス城を、リュージは政治の中心である『大公の間』を目指して歩いていく。

 城の間取りはアストレアから詳細な見取り図を貰って頭に叩き込んであったので、迷うことはなかった。


 もちろん最後はさすがに見とがめられ、


「ここから先は何人たりとも通すことはできぬ」

「貴殿もすぐに持ち場に戻られよ」


 大公の間の門を守る数人の近衛騎士――セルバンテス大公は臣籍降下したとはいえ先王の弟であるため、近衛騎士が警護についている――に行く手を阻まれてしまう。


「お前らに思うところはないが、ここに居合わせた不運を恨むんだな」


「なに? ぎゃあっ!」

「ぐぁ!」


 彼らをものの10秒とかからず全員斬り伏せてから、リュージは太閤の間へと踏み入った。


 そしてそこには腹心の上級貴族たちとともに、『セルバンテス大公』がいた。

 一国の王よりも絢爛豪華けんらんごうかな特大の王冠をかぶった中年の男だ。


「やっぱり戦場にいた『セルバンテス大公』は全て影武者だったか。先王の仇を討つだのなんだのご大層な大義を掲げながら、当の本人は一番後ろでコソコソ隠れているだけってのが、本当に救いようのない卑怯者だな、てめぇは」


 その場にいる全員の視線を集めながら、リュージが大きな声で嘲るような言葉を響かせる。


「何者だ貴様!」

「狼藉者めが!」


 そんなリュージに向かって剣を抜いて近づいてきた8名の近衛騎士を、


「失せろ――神明流・皆伝奥義・三ノ型『ツバメ返し』」


 リュージは空を飛ぶツバメも斬って落とすほどの、息をもつかせぬ連続の斬り返しで一瞬にして斬り殺した。


 さらには逃げもせずに、呆気にとられて見ているだけの無能極まりない上級貴族たちも容赦なく斬って捨ててから、


「よう、セルバンテス大公閣下。臆病で姑息なお前のことだから、どうせ戦場には影武者だけ行かせて、本人は出てきてないんだろうと思っていたぜ?」


 リュージは改めて、部屋の一番奥の豪華な椅子に座った男に向かって言った。


 シェアステラ王宮にあるアストレアの座る玉座よりも派手派手しい――まるでこれこそが真の玉座だと言わんばかりの――黄金と宝石でできた椅子だ。


 これを見れば、セルバンテス大公がどんな卑しい野心を持っているかは、火を見るよりも明らかだった。


「な、な、何者だ? あの娘の、アストレアの差し金か? そうであるならばすぐに降伏しよう! そもそも余は歯向かうつもりなどなかったのだ。あれは全て貴族たちが勝手にやったこと。余は強引に祭り上げられただけ。だから命だけは助けてくれぬか!」


 広々とした『大公の間』にたった一人となってしまったセルバンテス大公が、ガタガタと震えながら助けを乞い願った。


「アストレア? なに言ってんだ。あいつは関係ねぇよ」

「なに?」


「俺はリュージ。7年前の夏、お前とライザハット――お前の兄でもある先王に凌辱された町娘ユリーシャの弟さ」


「なっ!? あの時の娘の……?」


「感謝しろよ? 姉さんとパウロ兄の復讐のために、わざわざこんなところまで会いに来てやったんだからよ」


 悪魔かと思うほどに凄惨せいさんな笑みを浮かべるリュージに、


「ひぃっ!? ひっ、ひいっ!!」


 セルバンテス大公は臆病者の名に恥じぬ、豚の鳴き声のような哀れな悲鳴を上げた。


「ライザハットが殺されたのは知っているよな? あいつをったのは俺だ。そして今からお前も殺す」


「ま、待て、話せば分かる!」


「お前みたいなクズと話すことなんざ、ねえんだよ。お前の顔を見ているだけで! お前の口が言葉を紡ぐだけで! 早く殺せ、さあ殺せと俺の憎悪がどんどんと増していくんだからな!」


 だらりと刀を下げたリュージが、一歩、また一歩とセルバンテス大公へと近づいていく。

 しかし、


「ふっ、ふふっ、ははははははは――っ!」

 突然セルバンテス大公が気でも触れたかのように、大笑いを始めた。


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令和おとぎ話(2)「赤ずきんちゃん」「3匹の子ブタ」「白雪姫」~現代の童話集~

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ヤバイ赤ずきんちゃん爆誕!✨\( ॑꒳ ॑ \三/ ॑꒳ ॑)/✨

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