第44話 シェアステラ王国内乱

「納得がいったみたいだな」


「ちなみにもし叔父上が挙兵しなければ、リュージ様はどうするつもりだったのですか?」


「実際しただろ? アストレア、お前の国政改革は守旧派貴族にとってどうしようもなく都合が悪い。一般の民衆を政治に参加させようとしているのが、その最たる例だ」


「おや? 意外と王宮のことに情報通なんですね? そのことをリュージ様に話したことってなかったはずですけど。誰から聞いたんですか?」


 と、ここでアストレアが割りとどうでもいいことに気が付いた。


「今はそんなことはどうでもいいだろ」


「ふむ……いつ来ても1人で寂しく筋トレか瞑想をしているので、リュージ様はてっきり友達のいないガチボッチなのかと思っていたんですけど。意外とそうでもなかったんですね、評価を少し改めないと」


「しごく真っ当な交友関係だから、痛くもない腹を探るのはやめろ。お前に迷惑をかけるような関係じゃない」


 まさかとは思うものの、万が一にも青年リーダーにあらぬ疑いがかけられないようにと、リュージはアストレアに釘を刺しておいた。


 あの青年リーダーのことをリュージは割と気に入っている。

 それはキラキラとした目で希望と未来を語るところや、理不尽に対して先頭に立って命を懸けて立ち向かった姿が、どことなく亡きパウロを彷彿ほうふつとさせるからかもしれなかった。


 先日名前を教えなかったのも、自分と繋がりがあるということがマイナスにならないようにとの、リュージなりのささやかな配慮である。


 ついそんなことをしてしまうぐらいには、リュージは彼のことを気に入っていた。


「もちろんリュージ様のことは信じていますよ、99%は。残りの1%は、一国の女王として他人に100%を委ねることは許されない、私の立場的なものとお考え下さい。つまり実質100%ですので」


 アストレアが極上の笑顔で、リュージを信用していることをアピールする。

 しかしリュージは、それを右から左に聞き流すと言葉を続けた。


「話を戻すが、その守旧派の筆頭がセルバンテス大公だ。兄であるライザハット王の王位を簒奪さんだつし、好き放題に国を変えようとする偽女王アストレアから、王位を取り戻すという大義もある。ここで動かない選択肢はない」


「実に理にかなっていますね。これも納得です。でもまさか最初から――それこそ最初の暴動の時に私を助けた時から、あなたはここまでのことを考えていたのですか?」


「ある程度はな」

「国を二分する内乱を起こすつもりだったのですか?」


 アストレアの目が険しくなった。

 自分の統治する国でリュージが内乱を起こそうと画策していたのだから、女王としてはしごく当然の反応である。


「そう睨むなっての。そもそもこれはお前の国政改革が行われる以上、必ず通る道なんだ。俺はそれを少しだけ、自分に都合よく利用させてもらっただけに過ぎない。この事態を招いたのは100%お前の行為だ。勝手に俺のせいにするな」


「まったくですね。仰る通りで、返す言葉もありません。はぁ……」


 アストレアは大きな大きなため息をつくと、しかし気合を入れるようにぱちんと両手でほっぺをたたいた。

 そしてこれまでとは打って変わって、凛々しい女王の顔になって言った。


「セバス、叔父上を迎え撃ちます。すぐに全大臣、及び将軍の方々を集めてください。緊急の軍議を開きます」


「かしこまりました」


「それと王宮内の守旧派に目を光らせておいてください。少しでも叔父上に呼応するような動きがあれば、証拠なく即座に拘束することを許可します。近衛を使っても構いません。全ての責任は私が取ります。これは勅命です」


「勅命、謹んで承りましてございます」


 女王たるアストレアの勅命を受け、すぐさま行動に映ろうとしたセバスチャンを、しかしリュージが呼び止めた。


「ついでに俺からも一つ頼みごとだ。布陣する場所やら作戦やらなんやらの詳細が決まったら、俺に教えてくれ。なに、悪いようにはしない」


「アストレア様?」


「構いません、リュージ様には作戦の全てを詳細に説明してください。その上で自由な行動も認めるように。これも勅命です」


「御意に」


 こうして先王の弟であるセルバンテス大公の挙兵による、新生アストレア王国を二分する内乱の幕が上がった。

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