第25話 王都に、殺戮の血雨が降りそそぐ。

 アストレアと別れて部屋を抜け出したリュージは、まずはしっかりと食事をして体力を回復させると、アストレアから予定を聞いて、ミカワ屋会長サブリナ=ミカワが王宮にやってくるのを待った。


 そして筆頭・御用商人を拝命したサブリナが、急いで店へと戻る馬車をこっそりと尾行し始めた。

 神明流・初伝『剣気発生はっしょう』によって身体能力を向上させたリュージにとっては、馬車に人力でついていくくらいは造作もないことだ。


 そしてリュージが思った通りにサブリナの馬車が襲撃を受けるのを確認すると、サブリナを襲撃したゴロツキどもを前に、リュージの冷徹なる殺意が牙をむいた。


「死ね、クズども。神明流・皆伝奥義・三ノ型『ツバメ返し』』


 リュージが刀を一振りするたびにゴロツキの悲鳴が上がり、空を飛ぶツバメすら落とす鋭い連続技によって、血しぶきが右に左に舞い飛んでいく。


「なんだてめぇ――ぎゃぁっ!?」

「やんのか――ひぎぃっ!?」

「よくも兄貴を――ぎゃっ!」

「た、助けて――ごふぁっ!」


 たかが50人ちょっとのゴロツキでは、リュージの相手になりはしない。

 もはやこれは対等な戦いではなく、一方的な殺戮である。


 かつて魔人を葬ったと言われる勇者の力と、雇われのゴロツキ。

 両者の力は、大人と子供というくらいに次元が違っていた。


 しかしだからといって、リュージは容赦したりはしない。


 自分の邪魔をするものは殺す。

 それが徒党を組んでライバルの暗殺を企むような醜悪なであるならば、ためらう理由が入り込む余地は、猫の額ほども存在しなかった。


 しかもこのゴロツキどもは、リュージの最愛の姉をさらったグラスゴー商会の手下どもなのだ。


「さっきからギャーギャーとガキみてぇにうるせぇんだよ。早く殺してくれとお願いでもしているつもりか? 安心しろ、全員等しく殺しきってやるからよ」


 リュージは目に映るゴロツキどもを、顔色一つ変えずに片っ端から淡々と斬り伏せていった。


 王都に、殺戮の血雨が降りそそいだ。


「これで少しは世の中も真っ当になるかな?」


 あまりに一方的すぎて、リュージは刀を振るいながら思わずそんなことをつぶやいてしまう。

 ものの5分もかからないうちにリーダー格以外のゴロツキ54人は全員、リュージに皆殺しにされた。


「あ、あ、あ、あああぁぁぁぁぁぁぁぁぁ――――っっ!!!!」


 そして自らが築いた死体の山の中に悠然と立つ悪鬼のごときリュージの姿を前に、ついにリーダー格のゴロツキは恐怖のあまり逃げ出した。

 なんとも恥ずかしいことに、大の大人が派手に失禁してしまっている。


「ったく、仲間を見捨てて自分だけ逃げるなんざ、まさにクズの鑑だな。醜悪すぎて反吐へどが出るぜ」


 最後に残ったクズ中のクズを追いかけようとしたリュージに、


「た、助かったよ君、ありがとう。感謝してもしきれない、君は命の恩人だ」


 ここまで息を飲んで戦闘を見守っていたサブリナが、馬車から降りて感謝の言葉をかけた。


 普段のリュージならあっさりと無視しただろう。

 基本的にリュージは自分の復讐以外に興味がない。


 けれどリュージは自分からサブリナに近づくと、さっきまでの冷徹な復讐者の表情からは一転、優しい笑みを浮かべて言った。


「これからもいろんな妨害があるだろうが頑張れよ。あんたの成功を、きっと天国のパウロ兄も望んでいるからさ」


「え?」

「それだけだ」


「待ってくれ。まだ君に何もお礼をしていない。それに君の顔を昔どこかで見たような記憶が……それにパウロって――」


 しかしリュージはサブリナの言葉には答えず、もう話すことはないとばかりにくるりと背を向けると、逃げたリーダー格のゴロツキの跡を追い始めた。


 後には呆気にとられたサブリナと、誰一人怪我すらしていないお付きの一行だけが取り残された。

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