第24話 襲撃
◇ ミカワ屋SIDE ◇
シェアステラ王国で中堅大手の商会としてそこそこ知られているミカワ屋。
その会長であるサブリナ=ミカワは、王宮からの突然の呼び出しを受けて馳せ参じ、今はその帰途にあった。
サブリナは9才でミカワ屋に奉公してからミカワ屋一筋25年。
類まれな経営の能力を認められて先代の養子となり、今年で34才になった、ミカワ屋の看板を背負うにふさわしい清廉潔白な才女である。
『ミカワ屋のサブちゃん』として業界では広く知られていた。
「まさかうちが王宮の御用商人に選ばれるなんてね。しかも新女王陛下から直々に下知を受けるだなんて、いったい何があったのかしら?」
サブリナは思わず馬車の中で独り言をつぶやいた。
しかし向かいにいる護衛兼秘書は、それに何も返しはしない。
サブリナが考えごとをする時に独り言を言うのはいつものことであり、それを黙って聞きながら主人の胸の内を察し、先んじて様々な手配をしておくのができる秘書の役目だった。
「裏で何があったかは知らないけど、少なくともミカワ屋始まって以来の
サブリナは独り言を続けていく。
「しかも話によると、これまで御用商人のトップとして君臨していたグラスゴー商会の担っていた業務を、ほとんどそのまま譲り受ける形だって言うじゃない」
となれば、だ。
「なりふり構わぬ妨害工作をされるのは間違いないわね。うちだけで対処できるかしら?」
グラスゴー商会は、かなりあくどい手を使うことで有名だった。
そしてまず一番に狙われるとすれば、それはミカワ屋の会長であるサブリナの命に違いない。
商売敵の暗殺くらいは簡単にやりかねないのが、グラスゴー商会なのだ。
「最優先事項として、店に帰ったらすぐに護衛の人数を増やさないといけないわね。グラスゴー商会はこちらが準備を整えるのを、待ってはくれないでしょうから」
そんな風に、サブリナが今後の方針をあれこれ考えていると、突然、
ヒヒーン!
馬車を引っ張っていた馬が大きくいなないたかと思うと、馬車が急停止した。
「何事ですか?」
すぐに秘書が鋭い目つきをしながら馬車の前方の小窓を開け、御者とコンタクトをとる。
すると返って来たのは、現状で考えられうる最悪の答えだった。
「ぶ、武装した賊に囲まれております……! か、数は優に50人を超えるかと!」
「くっ……!」
悲鳴のような御者の説明を聞いて、サブリナは唇を噛みしめた。
グラスゴー商会はサブリナが帰るまで、悠長に待ってくれはしなかったのだ。
さっきの今でこの手際の良さは、さすが悪名高いグラスゴー商会だった。
「しかも白昼堂々、50人以上の武装集団を用意して襲撃するとはね。なにがなんでもこの一件は容赦しないってことなんでしょうね」
別にサブリナが、グラスゴー商会に対して悪意ある行動をしたわけではない。
しかし結果的に、グラスゴー商会の御用商人としての地位をそっくりそのまま横取りしてしまったのだ。
「これって、私たちを絶対に生きて帰さないって明確な意思表示よね。参ったわ」
「サブリナ様、諦めてはいけません。騒ぎを聞きつけた衛兵がすぐにやってくるはずです」
秘書兼護衛がサブリナを励ますように語りかけるものの。
「気休めはいいわよ。あなただって分かっているでしょ。どうせこの辺りの衛兵も全員、買収されているってことくらい」
(荒事に
彼らはそんな間抜けな組織ではないのだから)
「……」
「命運尽きたわね。ごめんね、あなたたちまで巻きこんじゃって」
サブリナは中堅大手の商会を率いる会長というだけあって、現状認識に優れていた。
これはもう無理だ。
奇跡でも起きない限り自分たちは皆殺しにされる、と完全に理解できてしまっていた。
(通りがかりの正義の味方でも現れない限り、助かる道はない――)
「……?」
(なぜ襲ってこないの?)
しかしいつまで経っても賊が馬車に押し入ってくることはなく、それだけでなく急に馬車の外が騒がしくなりはじめたのだ。
外にいる賊の悲鳴が次々と上がり始める。
何事かとサブリナが外を見やると、
「死ね、クズども。神明流・皆伝奥義・三ノ型『ツバメ返し』」
そこでは1人の黒ずくめの若い剣士が、殺戮の血雨を降らしていた。
◇ ミカワ屋SIDE END ◇
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます