第二幕 本能
なくなってしまった記憶にいつまでも悲観していてもどうにもならないではないかと私の中の本能的、あるいは野性的とでもいうべき何かが私に語りかけ、その何かに促されるままに私は歩を進めた。半分無意識下なのではないかと思うほどに、ただただその何かに引っ張られるように歩く。そんな中私はもはや頭の奥深くにまで追いやられた意識の中で「悟りを開いたブッダもこのような感覚だったのであろうか」という実に無意味でなんの生産性もない戯言を唱えた。私は最早脳を通さず脊髄が発したその言葉が妙に引っかかった。というのも私はブッダなるものの存在を知らない。だが私は確かに無意識下のような意識下の中ブッダというどこか概念のようなものの存在を認知していたのである。そんなことに困惑していると、近くに黒く光沢のあるボディーに羽のようなものを携え、カサカサと動く小さな生き物が見えた。私は、仮に百匹集まろうが私には大きさでも強さでもかなわないであろうほどのその小さな黒い生き物に恐怖感にも似た嫌悪感を強く感じた。私はこの食べてしまえるほどの大きさの生き物に少し興味が湧いたが、先程私の足を動かしたのと同じ何かによってそれ以上の干渉を拒まれるように再び私の足は前へ前へと動き始めた。
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