僕の厨二病と語る!! その2

 まるで宇宙空間に浮かんでいるような錯覚を感じながら、星司は尋ねた。


「説明書、ですか……?

 ……あぁ、なるほど。確かに【霊視眼】が発動した時に、右眼の説明書が欲しいとは思いましたね。

 それで、この凄く綺麗な星空が説明書代わりなんですか?」


「クカカ!! 美しき景色であろう?

 器よ、聞いて驚け……我が[星霊石]には、この星の数だけ"星霊の記憶"が刻まれているのだ!!」


「ナ、ナンダッテー!?

 ……え? こんなに多いのですか? "星霊の記憶"ということは、開眼能力の数も同じということですよね?」


 大仰なゲイザーの姿にノリで応えた星司だったが、内容を理解してしたことで、真の意味で驚愕することになった。


「クカッ! うむ、うむ。

 我が継承せし膨大なるチカラに、しっかりと驚いているようだな?

 とはいえ、早速の質問である開眼能力の数というのは、答え方が難しいぞ……。

 星霊の開眼能力は被っている場合も多いのだ。よって、能力の種類という意味ならば、グッと数は減るだろう。

 だが、同じ開眼能力でも、使用方法が全く異なることは珍しくない。

 星霊に選ばれたモノが、独自の能力を持たぬことなど有り得ぬ故、チカラの数という意味では、正しく星の数と等しいのだ」


「うわぁ……。【星霊眼】って、完全に万能、無敵、最強のチカラじゃないですか」


「無論、当然である……と、言いたいところだがな? そう簡単にはいかぬだろうよ」


「……あはは。それは、そうでしょうね」


「フッ、仕方あるまい? キンキノチカラには、代償が不可欠なのだから……。

 器へその辺りを説明するためにも、基本レッスンといこうか。

 まずは、開眼能力の種類からだ」


 そう言って、暗闇に浮き上がるゲイザーがお椀型にした両手を伸ばすと、その手の平の上に、周囲から青白い輝きを放つ星々が集まってきた。


「霊眼属性、全ての根源たるチカラに最も親和性がある、霊力によって開いた開眼能力。

 霊感の強化やアストラル体への干渉を得意とする」


 星々が夜空へ帰っていく。その際に、数多の幻影が浮かび、その中に無表情の巫女がいたことに星司は気づいた。


 青白い星々が元の位置に戻ると、代わりに紫の輝きを放つ星々が、ゲイザーの手の平へと集まってくる。


「魔眼属性、事象への干渉力に優れている、魔力によって開いた開眼能力。

 魔法現象とも呼ばれる、事象の改変を得意とする」


 再び、星々が解き放たれ、幻影が浮かぶ。

 その中にいた満面の笑顔で指を蠢かす大男に、星司は気づかなかった振りをした。


 紫の星々が帰り、黄色に輝きを放つ星々が集まって来る。


「心眼属性、特殊な霊感から発せられる、心力によって開いた開眼能力。

 感覚強化や見えない筈のことを得意とする」


 数多の幻影に、未だ星司が判別できる者はいなかった。


 黄の星々が帰り、白色の中に濁った黒斑点が混ざった輝きを放つ星々が集まってくる。

 その数は、これまでより少なかった。


「呪眼属性、思念を継続的な干渉力として付与する、呪力によって開いた開眼能力。

 呪詛や霊具の作成を得意とする」


 幻影が浮かぶが、他の星々と比べて明らかに禍々しい印象を受けるモノが多い。


 黒斑点の星々が帰り、金属的メタリックな輝きを放つ星々が集まって来る。

 その星々は、黒斑点の星々よりも更に少なく特徴的だった。

 一際強く、大きく輝く星を中心に規則正しい円運動をしているのだ。

 いや、一つだけ中心の星に一番近い星だけが、なぜか赤く輝きながら、無軌道に移動していた。


「機眼属性、一柱の星霊が造りだしたチカラである、機力によって開いた開眼能力。

 星霊機構と呼ばれる特殊なギミックを用いた様々な独創的能力の行使を得意とする。

 その赤いヤツが機眼の開発者でありながら、属性を持たなかった星霊だな。

 クカッ! いきなり、器の根幹へ絡んで強引に開眼した時は、我も焦ったが……なかなか面白いヤツだぞ?」


 幻影が浮かぶと、メイド軍団を引き連れたドウメキが優雅にお辞儀をしてから、博士らしき白衣の男を摘み上げて去っていく。


 メタリックな星々が帰り、黄金の粒子を瞬かせながら青白い輝きを放つ星々が集まって来る。

 その数はメタリックな星々の半分程度であった。


「界眼属性、一定の範囲内へ独自のアストラル干渉領域を展開する、界力とも呼ばれる霊力によって開いた開眼能力。

 謂わゆるユニークスキルであり、独自の法則を周囲に強制することを得意とする」


 幻影が浮かぶと、幼い少女が元気に手を振ってきたので、星司も小さく振り返した。

 また、携帯ゲーム機に夢中なゲーマは、星司に気づかないまま夜空へ飛んでいった。


 黄金が散る青白い星々が帰り、同じく黄金の粒子を瞬かせながら紫色の輝きを放つ星々が集まって来る。


「王眼属性、特定の事象に対する特化した干渉力を有する、王力とも呼ばれる魔力によって開いた開眼能力。

 謂わゆる支配系能力を得意とする」


 浮かんだ幻影達は、煌びやかな権威を帯びた姿をしている者が多く、それぞれが圧倒されるような存在感を放っていた。


 黄金が散る紫の星々が帰り、赤く輝く星々が集まって来る。

 その数はこれまでの中で最も多かった。

 ただし、一つだけメタリックな星の傍らに残ったままの赤い星がある。


真眼シンガン、霊力が属性を失ったチカラである、気力によって開かれた開眼能力。

 アイボールにおける成人の証であり、この地球の概念でいえば悟りを開いた状態だな。

 霊視を含めた視力の全体的な向上と、身体能力強化を得意とする。

 そして、機眼は真眼を改造することでのみ開眼し得る人工開眼能力である。

 この真眼に目覚めることが、一般的であることから、成人となり第三の眼が覚醒することを、『"真眼マナコ"を開く』と呼ぶ」


 無数の幻影が浮かぶ。時代も格好もバラバラであるが、その多くが逞しく、戦士の武威を纏っていた。


 赤い星々が帰り、夜空の全てが元に戻る。

 そして、両手を下ろしたゲイザーは、高速で回転しながら輝き続けるアグリゲートへ振り向き、目を細めながら告げた。


「星眼属性、混沌に対する秩序、世界を生み出すチカラ、活性霊子たる星霊力への変換システム……《始原星霊》たる我の権能であり、器が開いた開眼能力である」


──パチンッ。


 ゲイザーのフィンガースナップによって、壁や明るさなどを含めて部屋が元に戻った。

 勉強机の上では、回転の勢いと輝きを失ったアグリゲートが、カラカラと軽い音を発している。


「……なる、ほど?」


「クカカ!! 開眼能力を運用する上での基本事項であるが故に、こうして改めて伝えたが、別に覚える必要などないぞ?

 本来なら、器は我の全てを知っているのだからな」


「あ……確かに僕も、既に全てを知っているという、確信がありました。

 それに、集中すれば"記憶"から知識も浮かび上がりますしね」

 

「うむ。器の確信は正しい。

 であるが、器の根幹と融合した我の"記憶"は、謂わば原典であり、未翻訳なのだ。

 器を通して、人界の"認識"を取り込んだが、肝心な変換が終わっておらん」


「"認識"による変換……だから、流れ込んでくる"記憶"が断片的なんですか……。

 そして、今のレッスンによって、基本事項の翻訳が進んだんですね?」


「クカッ! まさにその通りである。

 原典のまま、器の根幹へと"記憶"を流し込むのは危険でな。

 虚ろなる我が、器のチカラある姿に染まったように、我の虚無に器が染まる……いや、呑まれるかもしれぬ」


「ということは、"認識"による翻訳を済ませた"星霊の記憶"だけが、開眼能力として行使できる訳ですか……。

 あれ? もしかして、星霊さんや開眼能力の名前とかは、翻訳された結果なんですか?」


 星司は遥かなる彼方より訪れた星霊のへ違和感を持たなかったことが、本来なら異常であることに気づいた。


「クカカ!! 我に刻まれしは、ではなく、なのでな。

 少々、覚えていた名前が変わろうとも意味が伝わるならば、許容範囲ということだ」


「それで星霊さん達が《モフリストミツゴロー・サファリ》に、《プレイヤーゲーマ・ミキシング》、《永遠幼女サダメ・サードアイ》といった名前なんですね」


「翻訳が直裁的であることは許せよ。

 "認識"とは、意味が通じることこそが肝要であるのだ。

 何より能力に【モフリ眼】だの【ビーム眼】だのと名づけている、イカれた器の意見を反映する気もないがな」


「あはは。面目ないです」


 星司は恥ずかしそうに頭を掻いた。


「ふん、我は嫌いではないが、星霊によってはそこら辺をうるさく言うヤツも……、いや、今はいいな。

 問題は、翻訳によって適応した開眼能力を行使すれば、器の根幹たる魂──特にアストラル体へ負担が掛かるということだ」


「アストラル体……幽霊みたいな精神体という意味ですか?」


「まぁ、間違いではないが、より正確に言うならば、魂を持つモノが己自身で定義している存在のカタチ……自我や本質とも呼ばれる"在り方"のことだな」


「自我や本質……"神秘"においても重要だと、マタさんが言っていましたね」


「例えるなら、サダメの開眼能力を行使することで、器のアストラル体が幼女のカタチとなり、人界でも段々と背格好や言動が幼女となっていく……と、いうことだ」


「…………激ヤバですね」


「クカカ!! 無論、激ヤバである!

 故に、一度開眼すれば、器の自力でも開眼能力を行使することができたのだが、今までは制限していたのだ」


「制限……あぁ、なるほど。だから、自力で発動する気がしなかったのですか」


 星司が納得して頷くと、ゲイザーも頷き返してから、少し悩むような顔で続けた。


「……うむ。こうして器を呼んだのは、その制限解除のためであり、忠告のためでもあったということよ。

 本来なら、ゆっくりと時間を置いて馴染ませるつもりであったが……これから先も器は止まれそうにないであろう?」


「まぁ、混沌とか出てきましたけど、中途半端で逃げるような真似はしたくないですね」


「ふん、行動への後悔が、我のチカラを渇望する原動力故、器を否定することはできぬが……」


 そのゲイザーの言葉に、星司はキョトンとしてから、顔に理解を浮かべた。


「あぁ、なるほど。この渇望は、から続いていたんですか。我ながら女々しいですね」


「クカッ! 何を言うか?

 他人が気にしていない過去を、いつまでも気にして思い出す……そんな感傷は、平凡な人間なら誰でも経験していることだろう?」


「あはは。……そうですね。結局は、酷く平凡な黒歴史というヤツですから」


「まぁ、よかろう。

 早すぎる邂逅とはいえ、我を"認識"したことで、今朝から揺れ続けていた器の本質は、ある程度安定した筈だ。

 任意発動の制限を解除しても問題はないだろうが、自我崩壊の危険性までなくなった訳ではない。

 恐らく、制限解除後も器自身のアストラル体が崩壊を避ける防衛本能として、開眼能力を使用するほど、右眼の出力──視力を低下させていくだろうな」


「え!? 『開眼能力を使えば失明する』ということですか?」


「いや、時間経過で回復する筈だ。

 それに器の霊格に合わせて出力を絞れば、ほとんど消耗は感じないと思うぞ?」


「あぁ、なるほど。威力に比例した待機時間クールタイムということですね。

 そう言えば、これまでに能力を再発動しようとした時も感じました」


「そういうことである。

 そして、〈星霊技〉を使えば消耗は、より激しくなるだろう。

 星霊の補助を受けることが出来れば、チカラは安定するが、アストラル体への負担はより大きいからな」


「新しく開眼能力が目覚めた場合も同じですか?」


「揺れていた器の本質が安定した以上は、新たな開眼能力が目覚める頻度も減っていく筈だが……器との親和性によるので断定はできんか……。

 何にせよ、新たな開眼能力の発動時だけは【星霊眼】の本質が強く影響する故、器の負担は極端に少ないだろうよ」


「『時の果てに消えゆく筈だった記憶の保存』……だから、今日だけで何度も新しい能力を使うことができたんですね」


「クカカ!! 本来なら、器の魂は過負荷で爆発四散していてもおかしくないからな。

 それでも一日に五度の目覚めは、流石に多過ぎたが……。

 今後は有り得ぬだろうから、新しい目覚めを期待して戦うのはお勧めせんぞ?」


「分かりました。元々、ゲイザーから与えられたチカラですからね。

 初回の無料ガチャが終わったとでも思って、目覚めた開眼能力を自力で使い熟すことから頑張りますよ」


「クカッ! 我と器はいずれ一心同体となる故、己がチカラだと認めてもよいのだぞ?

 それと目覚める順番は分からぬから、イロモノばかりが出て、我に詫び石を期待されても困るからな!?」


「あ、やっぱり気にしてましたか……すみません。

 凄く助かりましたし、本当に感謝はしているんですよ?」


「いや、分かっておるなら良いのだ。

 まぁ、我とてビーム、モフリ、ゲーミングと連続で出ればな……。

 ゴホン……さて、悠久の果てに訪れし邂逅も、名残惜しいが時間であるようだ」


「ッ!? 僕の身体が薄れていますね?」


 星司の存在が、ゲイザーの領域から離れようとしていた。


「今回は混沌との遭遇に【導命眼】の導きが合わさったが故に訪れた早すぎる邂逅。

 次があるとすれば……いや、器のことであるからな……あるいは近い内にまた会うのやもしれんな?」


「僕のこと? 近い内に会えるんですか?

 ……いえ、それはいいのですけど、このまま貰ってばかりも悪いですよね……?

 うーん、やれそうな気はしますが……」


 パチン。

 と、フィンガースナップが響く。


「ぬお!? こ、これは!?」


 その瞬間、ゲイザーの手作り厨二コスチュームが、一気に変化してしまった。

 ベルトが複数ある襟が高い黒のコートの背中と、右眼を覆う眼帯には、チカラに反応する黄金の魔法陣が描かれている。

 上半身はピッチリと肌に張り付く濃い灰色のインナーで、下半身は滑らかな黒革のパンツと同じく革のゴツいブーツ。

 左腕にはエジプトのミイラや聖骸布を連想させる古ぼけた包帯が巻かれ、右手にはシンプルながら金属で補強された指貫グローブ。

 コートを含めた全身に銀のチェーンが装飾とされている。

 そのイカれた厨二衣装は、デザインが一新されただけでなく、オーダーメイドのようにピッタリとサイズがあっていた。


「中学生になった僕の考えた最強の姿です。

 偶にふと考えることもありまして……小学生時代よりも理想が具体化したというか、当時の僕自身が、曖昧な目標しか考えていなかった気もします。

 思い返してみると、本当はそんな感じの姿を目指していたんですよね……。

 勝手をしましたが、気に入りませんか?」


 半分ほど透けた星司の言葉に、固まっていたゲイザーが、凄まじい笑顔で答えた。


「ありがとう、《星を司る者アストラル・マスター》!!

 素晴らしい!! チカラが漲る!!

 うむ! うむ、うむ。これは、器にオマケをせねばな……。

 よし、真なる姿となったことで、我と器の繋がりが更に増しておる。

 故に、少しばかり器の戦いを補助するための細工をしてやろう。

 クカカ!! 我も既に"神秘"の一つなれば、器に憑くことも道理よな。

 なれば、一時の別れだ。器よ、また会おう!!」


「え? あの……はい、では、さようなら」


 怒涛のようなゲイザーのテンションに流された星司は、オマケに対して質問することもできずに、領域を去っていった。


「クカッ! 魂を持つ者との対話か……なかなかによいモノだったな。

 だが、お主達との未来に同じモノを望むのは、些か強欲が過ぎるかな? なぁ、どう思う? アグリゲートよ」


──ズキン!!


 ゲイザーが声を掛けると、[眼球儀アグリゲート]が脈動する。

 その様子は右眼の疼きを彷彿とさせた。

 そして、惑星アイボールを完全に再現した姿が、|無数の小さな球体が集合した状態へと変わり、その全ての球体──眼球がまぶたを開くのだった。────

 

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