徹底して 数字チェックだ 宝くじ

徹底して 数字チェックだ 宝くじ


 現地人の同僚はよく「宝くじの一等が当たったら退職するんだ!」などと数年間言い続けている。だが、一等も一生食いっぱぐれるほどの金額ではない。宝くじで一等当たった田舎のお兄ちゃんが、ちょっと景気良く使ったら半年で使い果たす程度だ。それでも夢は夢だ。


 日本と違ってこの国の宝くじは売り場で好きな番号を選べる。といっても皆が気にするのは精々下2桁から下4桁までだ。心に決めた数字を持って買う人が多い。


 義母のところにかつて怪しい夢占い本があった。数字順に何やらキーワードがあって、「この夢を見たらこの数字が来る」ということになっているらしい。パラパラめくっていると漢字が目に入った。


「孟子」


 爆笑した。


 この本のルーツが中国なのはよくわかった。というかこの21世紀に誰がそんな夢を見るのだ? 孟子さまもこんなネタに引き摺り出されていい迷惑だろうに。


 夢よりもっと人気があるのはひとの不幸だ。


 先月の某日上司からLINEで「出勤途中で交通事故にあったので、今日は午後から出勤する」と連絡が入った。上司は乗用車を運転していて、後ろからバイクに追突された。幸いなことに上司の方は無事だったが、警察で調書を作ったりしなくてはならない。


 ちょうど偶然、親しい同僚が上司の車の3台ほど後ろを走行中で、上司の車と加害者のバイクの写真を撮って送ってきた。そのニュースを聞いた同僚たちの反応は異口同音にこうだ。


「「「上司の車とそのバイクのナンバープレートの数字は何? 写真見せて!」」」


 そう。交通事故にあった車のナンバープレートの数字で宝くじを買うのはこの国ではテンプレなのである。「事故で何かが当たったなら宝くじにも当たるかも」と言う発想のようだ。この国では誰もそれを不謹慎なことだとは考えない。


 それでそのときの宝くじはどうなったかって? 例の同僚は相変わらず同じ部署で仕事を続けている。大体そんなことで簡単に宝くじの一等が当たるはずもない。ナンバープレートの数字はのだ。当然であろう。今回の交通事故で上司はのだから。

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