存在しない攻撃
「な!?」
なんと、俺とおじいさんの間に、境界線として設置した腕には、何の衝撃も感じなかったのだ。
馬鹿な。そんなはずはない。そんな思いが俺の中で渦巻き始める。
だって今もなお、腹には軽い衝撃が続いている。今のところは問題ないが、塵も積もれば山となるということわざがあるように、小さな衝撃でも大量にもらえば大きなダメージとなる。つまり、攻撃の出所がわからない今、俺は不利な状況にあるということだ。
(だけど……)
このおじいさんは1つミスを犯している。
スキルの使用条件なのかもしれないが、このおじいさんは出所の分からない攻撃をしているのにもかかわらず、距離を取らずに俺の目の前で立ち尽くしている。その足腰は年相応で、少し強めに握ったらポッキリと折れてしまいそうだ。
威力自体は下がるが、今の俺なら予備動作なしでもそれなりの威力の攻撃を放つことは可能。そしておじいさんの体ぐらいなら、威力の下がった攻撃でも破壊できる。
(これなら……!)
俺は拳を瞬時におじいさんに向けてセットし、後ろに拳を引き絞ることなく、闘力をプラスして放った。
瞬時に放たれたその拳に、おじいさんが気づいた様子は無い。
(一撃入る!!)
……が、またしても攻撃が着弾する寸前に、おじいさんの姿は跡形もなく消え、俺の拳は空を切った。
「ちぃ!! またか!!」
俺は消えたおじいさんを探すため、視線をぐるりと1周させる。
だが、どこにもおじいさんの姿はない。まるで最初からいなかったかのように、髪の毛1本も存在していな――――
「ここじゃよ」
突如上から聞こえる声、それと同時に感じる頭への衝撃。この目で視認できなかったが、そのことからおじいさんは俺の上にいると推理できた。
「いいようにさせてたまるか!!」
身動きの取れない空中なら、捕まえることは十分可能のはず。俺はそう考え、闘力でスピードを上げた両腕で空中にいるおじいさんを捕まえようとするが、それもまた空を切る。
「考えすぎ……タイミングが1歩遅れとるぞ?」
(……っ! また!)
空中からお次は真横に指導してきたおじいさんに対し、ほぼ反射的に反射と闘力を込めた拳を発射する。
「次は本能的に動きすぎ……動きが単調になっとるぞ?」
「な――――」
瞬間、胸に強い衝撃をぶつけられ、後ろに大きくのけぞる。俺への慈悲のつもりなのか、攻撃の大チャンスだというのに攻撃せず、俺が起き上がるまで待ってきた。
「起きたか? なら続きじゃな」
(……このおじいさん、何者なんだ?)
目の前の存在の異質さに、俺は背筋がぞくりと震えるのを感じた。
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