キングの強さ

 唐突に始まった俺VSおじいさんの戦い。


 正直言って、頭のおかしくなったおじいさんの無駄な世話焼きにしか見えないが、ここは適当に追い返すより、一瞬で実力の差を理解してもらった方が、後腐れなく帰ってくれるだろう。


「じゃ、このコインが地面に落ちたら開始でよいな?」


「ええ、いいですよ」


 俺が了承の返事をすると、おじいさんはポケットからコインを取り出し、親指で上に弾く。


 ゲームルールなんてどうでもいい。どうせこのおじいさんの目の前で拳を寸止めして終わらせるのだから。


(反射を使って……)


「強くても泣かないでくださいねっ!!」


 コインが地面に着地した瞬間、俺は一気に地面を反射させ、おじいさんから見たら目にも止まらぬであろう速度で接近する。


 おおよそ、おじいさん相手に出すようなスピードではないが、これもおじいさん自身に余計なお世話だと知ってもらうために致し方ない。


 おじいさんも俺の速度に目が追いついていないらしく、俺が接近した瞬間から目が動いていない。まぁ当然と言えば当然だが。


(終わりっ!! ……寸止め!!)


 俺はそのスピードに合わせ、突き出した右拳をおじいさんの顔面に向かって発射した。


 ……が、その瞬間、驚くべき事態が発生する。


「な!?」


 なんと、おじいさんは俺の拳が目と鼻の先まで近づいた瞬間、首を曲げてギリギリのところで回避したのだ。


(やばい!!)


 俺はそれに身の危険を感じ、一旦距離を取る。


「……どうした? 俺はまだ拳をもらっておらんぞ?」


「…………」


 おじいさんの言葉に耳を貸さず、俺は脳をフル回転させる。


(なんだ……? 手を抜いていたとはいえ、あのおじいさんにそんな芸当ができるのか……? ……身体能力強化型のスキル? いや、それでもおじいさんの体では……)


「どうした。来ないならこちらから行くぞ?」


 瞬間、離れたところにいたおじいさんが急に目の前に現れた。


「うおっ!?」


 無論、俺はそれに対応するため、さらに後ろへ離れようと体を動かす。


「ぐっ……!」


 しかし、離れようとした時、腹の下のあたりから軽めの衝撃を感じる。軽めとはいえ感じる確かな衝撃に、一瞬行動が遅れてしまった。


「ほれほれ」


「むっ! ぎっ!? がっ!!」


 そこから断続的に、軽めの衝撃が何度も腹を襲ってくる。おじいさんが殴っているのかと思い、おじいさんの拳を確認してみたが、おじいさんは手を腰に回しており、そこから拳を発射しているとは思えない。


(……いや! 試すべきだ!)


 それでも、おじいさんの拳が放たれているとしか思えなかった俺は、腰に回されている手と自分の体の間に腕で境界線を作る。


 これならいくら目に見えない超高速スピードで拳を発射しているとしても、その攻撃が腕に当たり、防御できるはず。


 それに加えて、俺の腕には反射の力をプラスさせた。あの程度の軽い衝撃なら、俺の反射で弾くことなど造作もない。



――――が、事態は予想だにしない方向へ動き始める。

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