おじいさん

 袖女との訓練を朝と夜、毎日やると決めた俺。


 しかし、だからといって俺個人の訓練を怠っているわけではなく、本来は体を休める時間にしている昼を使い、ブラックを連れて民間の訓練所に来ていた。


「ふー……やっぱちょうどいい……」


 本部の訓練所で大量の女に見守られながら訓練するというのも乙なものだが、訓練とはやはり自分自身との勝負の時間。視線を感じている時よりも、明らかに集中度が違う。


「これで、対戦相手がいたら完璧なんだけどな……」


 一応、出発する前に袖女を誘ったのだが、苦しそうに床に寝転びながら行きたくないと即答されてしまった。全身筋肉痛で動けんらしい。


「全く……腑抜けた奴だ」


 幸いなことに、先日戦ったグリードウーマンのおかげでまた新しいイメージトレーニングが可能になっている。


「ん……」


 イメージトレーニングのバリエーションが増えたとはいえ、結局はグリードウーマンも格下。その姿かたちや戦法が牛に酷似しているだけで、牛よりも間違いなく弱いため、訓練による成長に限界を感じてきているのは変わらなかった。


(やはり実戦……)


 実戦ほど自分を成長させることができる機会はない。何度も何度もそう再確認させられる。


 今日はもうここまでにしよう。そう思い、ブラックを呼ぼうとすると、とある人物が声をかけてきた。


「おーやっとるのう」


 声が聞こえた方を向くと、そこにいたのは喫茶店にいつもいたおじいさんの白い方が訓練所の外に立っていた。


「喫茶店のおじいさん? どうしたんですかこんなところで」


 喫茶店ならまだしも、訓練所は年寄りが来ていいような場所ではない。何か目的があるはずだ。


「いやいや、実は前々から見とってのう」


「……はぁ」


(おじいさんが訓練を見学? にわかには信じがたい)


 何を狙っているんだとおじいさんに対して警戒心を抱くが、よく考えてみれば、あんなおじいさんにできることなどたかが知れている。ここは冷静な自分でいるべきだ。


「で、俺の訓練を見て何をしてたんですか?」


「ちょっと伸び悩んでいるんじゃないかと思ってのー……考えるに、対戦相手に困っていると見た」


「……じゃあ、相手をしてくれるんですか?」


 ますます怪しい。俺の思っていたことをちょうど当ててくる。1周回って気味が悪い。


「お! いいのう! 俺が相手をしてやろう!」


 おじいさんはそう言うと、ズカズカと訓練所に入ってくる。


(マジで入って来ちゃったよ……)


 しょうがない。ちゃちゃっと寸止めして終わらせるか……



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