代償と決着

 俺はさっきのお返しと言わんばかりに、強化した拳をグリードウーマンだったものに叩き込む。


 その威力はグリードウーマンだったものの拳を容易に消滅させ、その体を後方の高層ビルまで吹っ飛ばした。


 結果、高層ビルは完全に倒壊。それどころか、その周りにあった建物まで木っ端微塵になるという圧倒的な破壊力を魅せつけた。


「痛っづ……!?」


 そんなことを考えていると、頭の中に鋭い痛みが走る。幸いなことに、その痛みはほんの一瞬で、その代わりに頭から目へじんわりとした倦怠感とめまいが襲ってきた。


「血が……」


 長風呂から上がった時に血が頭に周り始めたのと同じ感覚。どうやらこの必殺技は、視界がモノクロになるほどの超絶スピードと引き換えに、体の中の血がかたよるらしい。


(攻撃の前後の後隙がかなり大きい必殺技だな……常用はできないか)


 本当にどうしようもなくなった時の一か八かの策として考えた方がよさそうだ。


(それより、奴はどうなった……?)


 グリードウーマンだったものの生死を確認するため、倒壊した高層ビルの方に目を向けると、そこにはしっかりと足で大地を掴み、ヨロヨロと立ち上がるグリードウーマンだったものの姿があった。


「ぐ……ううう」


 その姿はとても万全とは言えず、耳や鼻、欠損した腕の付け根からは血が勢いよく噴出し、息も切れている。体のあらゆる所の肉がえぐれ、ビルの破片も刺さっている。


 一撃もらったものの、反射と闘力操作のおかげでたいしたダメージを受けず、血の1滴も体外に出していない俺と、先言ったように全身ボロボロのグリードウーマンだったもの。


 戦いの勝敗は既に見えている。ここから俺が負ける可能性など、万に1つもありえない。


(……これなら、変身する前の方がよっぽど苦戦した)


 俺の拳が直撃する前、もしグリードウーマンの姿が変身前の状態であれば、その危険性を感じてすぐにでも回避行動をとっていたはずだ。


 だが今はどうだ。ただ敵を見つけ、まっすぐ進んで拳をぶつけるだけの獣。いくら力が強くなろうが、あたらなければ何も生み出さない。無意味な変身だ。


 返信する前の方が厄介だった理由には、そんな理論的な側面ももちろんあるが、何よりもたった1つ、変身前にはあって変身後にはない、戦いにおいて何よりも大事なものがある。





 それは……『信念』だ。





 変身前のグリードウーマンには、強さはともかく、絶対に負けられないという意思がこちらにも伝わるほど溢れていた。何かのために必死になる。その点においては、俺と似ていて、ある種の親近感も感じていた。



 しかし、変身後にはそれがない。



「ぐるああぁぁ!!!!」



 だから、いくらこちらに向かってきて、拳を振り上げようとも……



「信念のない者が……俺に勝てるわけないだろ」



 俺の拳が、その腹を突き破った。

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