宿敵の面影

 筋骨隆々、耳から角の生えた化け物。体の変質をその筋肉に任せ、重力に逆らわず体を膨張させたその姿は、大阪派閥で出会った十二支獣、牛を彷仏とさせた。


「……さて、どうするかな」


 グリードウーマンだったものは、体を急激に変質させた影響か、頭を強く抑え、苦しそうにうごめいている。まだ脳が体の変化に順応していないといったところか。


 俺に意識を向ける脳が存在していないのは、こちらとしては好都合。


 反射を足の裏に発動。エリアマインドで近くの砂ぼこりを浮遊。闘力操作は右拳にだけ発動。ある程度の闘力を右拳に集中させる。


(よし……)


 グリードウーマンだったものの意識がもし、常にこちらに向いているものだったら、ここまで万全に準備を整えることはできなかっただろう。


 エリアマインドの力の一端を手にした時から思い描いていた新たな必殺技、それを今試す時だ。


 勢いよく地面を蹴り上げて加速。グリードウーマンだったものとの距離を一気に縮める。


 それだけではない。エリアマインドで周囲に漂わせておいた砂ぼこりを自分の足の裏に配置。ダストジャンプで、ただでさえものすごい速度で動いている体を更に加速させる。


 大阪にいた時はこれで終わりだっただろう。しかし、今の俺はデュアルを超えたトリプル。使用できる選択肢が増えた分、あらゆる敵への対処が可能。


 例えばこの場合、前のダストジャンプでは、反射の勢いで砂ぼこりが後ろに吹っ飛び、それ以上の加速はできなかった。


 だが今なら、エリアマインドで砂ぼこりを制御できる今なら、さらなる加速を生み出せる。


(砂ぼこりを後方に飛ばされないように……)


 エリアマインドで砂ぼこりを足の裏に固定する。こうすることで、連続でダストジャンプを使用できるようになる!!


「はぁぁぁぁ!!!!」


 とんとん拍子に速くなっていく俺の体。耳が聞こえなくなる。まるで飛行機に乗った時に起こる耳鳴りのようだ。


 今までも確かに超スピードだったが、今回のスピードは今までの比ではない。



 視界が灰色に変わる。頭から血が抜けていく感覚がする。



 もう闘力を貯めた拳を振り抜くしか考えられない。これを止められたらもう次の手はない。



「ぐるぅぅ!!?」



 グリードウーマンだったものも、俺の存在に気がついたのか、俺に対して拳を合わせる。



 しかし、グリードウーマンだったものの拳は、いともたやすく粉々になり……



 お返しと言わんばかりに、後方のビルに叩き込んだ。

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