変貌の姿
ボロボロになったその体を無理矢理持ち上げ、グリードウーマンはもはや満身創痍の状態だ。
しかし、俺の脳内に手加減という文字が浮かぶことはない。この女は犯罪者だし、立ち上がるということは戦う意思がある証明だ。
(まだ……戦えるってことだよな?)
ただグリードウーマンのその体を見据え、一歩一歩近づくたびに、俺の視界に映るグリードウーマンがどんどん大きくなっていく。
「う……うああぁぁぁぁ!!!!」
俺とグリードウーマンの間の距離が5メートルほどになった瞬間、グリードウーマンが大きな叫びをあげて発狂した。
「あぁ?」
どうしたというのだ? 叩かれすぎて発狂したか。
「あはぁ……ふふ、やってやるわよ……あのクソ派閥の力を使うのは癪だけど……あなたのために使ってあげる!!」
と、ズボンのポケットの中から注射器を取り出す。
「……っ!?」
あの注射器を見た瞬間、脳がマックスで危険信号を送り始める。あの注射器はやばい。使わせてはならないと叫ぶ。
そう感じてからの俺の行動は速かった。
脳が危険信号を送り始めた瞬間、俺は歩いている状態から反射の力を使って一気に加速する方向に体をシフトさせる。
足裏に反射を発動させ、地面を弾いて一気に加速。1秒にも満たないうちに、互いの鼻先が触れるほどに近づく。
確かに俺は速かった。今の己にできる最高速で、最善の道を通ったのだ。
ただ、それでも、注射器の針先がグリードウーマンの肉を貫く方が――――
――――速かった。
暗転する。
――――
「……あ?」
気がつけば、俺は大きなビルに激突していた。
(何という……)
高層ビルがあるはずの後ろを振り向くと、既にそこには何もなく、あるのは高層ビルだったはずの瓦礫のみ。
高層ビルを粉々にするほどの一撃。そんなものを受けてしまえば、俺自身も散らばる瓦礫と同じく、粉々に破壊されてしまう。
だが、俺はこうやって四肢を欠損することなく生きている。
「となると……反射と闘力操作か」
どうやら俺は無意識下で反射と闘力操作を使い、致命傷は免れたようだ。
しかし、この口の中に広がる鉄の味。胸の中から溢れ出るようなこの痛み。反射と闘力操作を使っても、ノーダメージとはいかなかったらしい。
(あ、そうだ……グリードウーマンは……)
目の中に入ったホコリを拭い、鮮明になった瞳で、グリードウーマンがいた方向を見る。
「ウ、グウ……ガアアアアアア!!!!」
「……マジかよ」
そこには、グリードウーマンがもともと持っていた美貌が消え失せ、筋骨隆々、耳の部分から角が生えた化物が存在していた。
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