強くなった
グリードウーマンを地面へ叩きつけ、戦いが地上戦に移行した時、俺は間違いなく勝利したと、そう思った。
力を隠している可能性もあったが、あれだけ攻撃を受けているのに、隠している力を使わないのは不自然。隠している力があるのなら、とっととその力を使った方がダメージが少なく済んだはず。
それをしないということはつまり、もうあれが限界。グリードウーマンの体がたたき出すことができる最大出力だという証明に他ならない。
(なのにすごいなー)
グリードウーマンは、俺が予想した力の限界をはるかに超え、俺の顔に拳を一撃入れてみせ、あまつさえ、今もなお行われている接近戦で俺と拮抗している。さっきまでこちらの方が圧倒的に強かったのにだ。
(限界の壁を超えたってやつか)
すばらしい。今までは、俺の方が格上をなんとか倒す展開が多かったので、相手が急に強くなるなんて展開はなかった。気分としてもとても新鮮だ。
(いいねぇ……)
相手が強くなってくれる。今の俺にとって願ってもないその現象に思わず気分が高揚する。
(いいねぇ!!)
レベルダウンも、袖女も、十二支獣も、牛も、騎道雄馬も騎道優斗もこんな気分を味わっていたのかと思うと、今まで自分だけこの気分を味わえなかったことに嫉妬を覚える。
勝負せずにはいられない。逃げ出すなんてもってのほかだ。
強くなった相手に対して取る行動には、自然と力が入る。
「楽しもうぜ!!」
まずは一撃。闘力で強化した右拳を、グリードウーマンの脇腹に叩き込む。
当の本人のグリードウーマンは、いろんな感情が入り混じったような表情を浮かべる。なぜだかわからないが、その感情の中には、驚きや恐怖があるように感じられた。
(どうした? 攻撃がヒットしただけだ。大して驚くことじゃ……)
グリードウーマンが痛みに悶え、攻撃の手を緩めた瞬間を俺は逃さず、今度はエリアマインドを使い、腕の発射速度を更に速めた拳を作る。
「ねぇだろ!!」
その一撃はグリードウーマンのみぞおちに直撃。あまりにも完璧に決まったその一撃は、グリードウーマンの体を吹き飛ばし、後方に存在していたアパートを崩壊させた。
「どうした!? もう終わりか!!」
俺は悪魔のような笑みを浮かべながら、崩壊したアパートに向かって叫ぶ。こんなことを言っておいてなんだが、今のグリードウーマンはアパートを崩壊させる程度の一撃でダウンしてしまうほど弱くは無い。俺の心の奥底には、グリードウーマンは間違いなく立ち上がってくる。そんな確信めいたものがあった。
そして……
「ぐるああああぁぁぁぁ!!!!」
俺の期待に応えるかのように、そこら中に散らばるアパートの残骸を吹き飛ばし、グリードウーマンがその姿を見せる。
その格好は見ていられないほどで、体中に滴る血はもちろんのこと、もともとの美形の顔が嘘のように顔中が腫れ上がり、歯も何本か欠けている。左腕はアパートにぶつかったときの衝撃で折れたのか、ダランと垂れ下がっており、全身を覆っていた緑のタイツは所々がやぶけてしまっていた。
が、俺はそんなことを気にせず、ズンズンと歩を踏み、グリードウーマンに近づいていく。
あんなものじゃまだ足りない。
もっと、もっと……
俺の強敵になってくれ。
その思いを抱きながら、俺はグリードウーマンへと歩み寄る。
グリードウーマンの目は、既に恐怖にまみれているのを感じずに。
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