体の無意識化

 ついにヒットした私の攻撃。それは完璧にこの男の顔面を射抜き、少なくないダメージを与えた。



 ……かのように思えた。



「なっ……!?」


 なんと、確実にヒットしたはずの私の拳が、着弾すると同時にパァンと、銃弾が発射された音のような破裂音を響かせ、大きく後ろに弾き飛ばされたのである。


 ついさっきまで、私はこの男のスキルを、身体能力をかなり高い倍率で向上させるスキルだとばかり思っていた。今の私のスピードに追いつけるのは、素の身体能力では到底不可能だからである。


 しかし、どうもそれは違ったらしい。


(攻撃が……弾き返された!?)


 スキルなしでこの現象が起こるのはありえない。つまり、この男のスキルは『触れたものを弾き返すスキル』で確定だ。


 だとすると、あの異常な身体能力に疑問が残るが……


(……いや、待って)


 ある。あるぞ。スキルに頼らず、人間の身体能力を爆発的に向上させる方法がたった1つだけある。もしそれが本当だとするれば……


(彼も……私と同類?)


 それだと、もしかすると――――


「ふんッ!!」


 考える時間もなく、気がつけば、男の拳が私の顔の真横を通過していた。無意識化で体が回避してくれていたからよかったものの、もし体が動いていなかったら、もろに攻撃を受けていたに違いない。


(本当にこの体には感謝しっぱなしね……)


 本当にこの体はすばらしい。私の大層な野望に文句も言わずついてきて、さらには体の無意識化……脳で考えずとも、体が勝手に反応し動き出す武術を習う人間の到達点というべき次元まで到達した。


 感謝してもしきれない、そんな体に敬意を表しつつ、今は勝つこと、そのことだけを考えるべきだ。それ以外は二の次。この男を倒してからでも遅くは無い。


(じゃないと、この体にも失礼だから……)


 私はこの戦い、勝つのではない。




 勝・た・ね・ば・ならないのだ。

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