到着
一体どんな風になっているのだろう。そんなことを考えながら、私は空中を浮遊していた。
数分前から始まった犯罪者たちとの戦い。最初から勝ち目のない戦いだとは思っていたが、なんと、紫音と里美は気を失い、私もボッコボコにされてしまった。
まさかここまで差があるとは思ってもみなかった。
(犯罪者たちが問題なんじゃない……あの2人だけが問題だったんだ)
目が腫れて狭ばまった視界の中で、かすかに見える2人の人影。グリードウーマンとシュルカー。
この2人だけでも……いや、この2人を抑えきれなかった時点で、私たちの負けは決まっていた。
私と紫音のスキルはグリードウーマンのスキルに吸収されてしまうため使えず、唯一まともにスキルを使える里美はシュルカーに抑え込まれる。おそらくは前々から考えられていたのだろう。単純だが、単純だからこそハマった時のどうしようもなさは半端じゃない。
「やあっと……食べ頃よね?」
「私に聞くな、責任を持ってお前が食え」
「はいはーい」
グリードウーマンはシュルカーと対話した後、悠々とこちらに向かってジェットパックを動かす。
そして、グリードウーマンがこちらに移動してきたのと同じタイミングで気づいてしまった。
(あ……殺される……)
私も、私の後ろにいる2人も殺されてしまうと。
後ろにいる2人も……
そう考えた瞬間、私はニヤリと笑い、スキルで浮かせている2人の体を操作し、近くにあるビルの屋上に優しく降ろす。
(……ダメ、2人が死ぬのだけは、ダメ)
これは相手との実力差を感じることができず、無謀にも単独で戦いを始めてしまった私の責任。責任を負うのは私1人でいい。
その様子を邪魔せずに見ていたグリードウーマンから、こう話しかけてきた。
「……ずいぶんと後輩思いなのね」
「……あはは、後輩たちは私よりも未来があるからね」
「あなただって10代後半でしょ?」
「それでもだよ」
すると、私の言葉を聞いたグリードウーマンは、目を見開いた後、慈母のような微笑を浮かべ、私に向かって拍手をし始めた。
「すばらしいわ。それこそあるべき人間の形。思いやり、支え合い……前に見たのはいつだったかしら」
「……じゃあ見逃してくれない? 次会った時にもその人間の形ってやつを見せてあげるからさぁ」
「それは無理ね。確かにあなたは人間の皮を被った種族とは違い、私と同じく、れっきとした人間……だけど、世界を変えられるのはあなたではなく、この私……私の邪魔をする以上、いくら人間であろうと容赦はしないわ」
「……決意が固いんだね〜」
戦闘してきたことによるアドレナリンのせいなのか、体中が悲鳴をあげているはずなのに、頭の中だけは異様に冴えている。これから殺されるのに。
そして、グリードウーマンは私の目の前まで近づき、目の前の敵を殺すため、右拳を振り上げる。
「……あなたが世界を救う意思を持っていたら、私たちは良き友人になれていたかもしれないわね」
「……かもね。でも、これが私だから」
私はもっと生きたかった。もっとここでいろんな経験をしたかった。
もっと、もっと、もっと――――
……できるなら、後輩たちの成長をもう少し見ていたかったな。
振り落とされた拳を見ないように、瞳を閉じると。
「……っと、危ない危ない」
男の人の声とともに、抱きかかえられるような感触を体に感じた。
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