犯罪者は伊達じゃない。それはチェス隊も

 グリードウーマンに懐まで接近され、私の思考回路は超高速で回転を始める。


 ここから一旦距離を取るのは容易だが、グリードウーマンのさっきのスピードを見るに、距離を取ってもまた詰められかねない。なら、いっそのこと接近戦に持ち込むのが得策と見た。


 結論を出した私の脳内は、私の体に攻撃命令を出す。今、私とグリードウーマンの体の位置関係は私の方が高い位置にある。この状態なら、人間の弱点である後頭部を殴りつけれるはずだ。


 そうやって飛び出した私の右拳は、見事にグリードウーマンの後頭部にヒット。その衝撃でぐらりとよろめく。人間の体の構造的に、これが耐えられるはずがない。


 が、グリードウーマンはそのまま落下して行かなかった。むしろ頭を上げ、ニヒルな笑みを浮かべてくる。


 グリードウーマンは、その笑みを見て一瞬怯えたことで生まれた私の隙をつき、アゴにアッパーを叩き込んできた。


「……っ!?!? あっ……あ、あっ」


 人間の弱点である顎への衝撃に、視界が大きく歪む。


 しかし、この程度で倒れてしまってはチェス隊の名折れ。その衝撃に身を委ねず、堪えきる。


「がああぁぁ!!」


「あはは! いい色になってきたわね!!」


 そこから始まる乱打戦。一見、身体能力的に強化がない私の方が不利に思えるが、実はそんな事は無い。風の力を使い、相手の攻撃がインパクトする前に攻撃の発射方向と逆向きに風を発生させることで、風の抵抗で威力を弱めることに加えて、こちらは風で体の速度を上げている。相手へのデバフと自分へのバフを同時にかけ、なんとか渡り合っているのだ。


 しかし、ここまでやってもな・ん・と・か・渡り合えているレベルという事実から、グリードウーマンの実力がどれだけ高いかうかがえる。


「はぁっ!!」


 私が放った左拳の一撃を、インパクトする瞬間に腕を蛇のようにしならせ、とぐろを巻いて絡め取られる。


(まずい!)


 攻撃が来る。そう感じた私は、自分とグリードウーマンの間にもう片方の腕を滑り込ませ、ガードの構えをとるが、そう簡単に守らせてはもらえなかった。


「うがっ……!?」


 突如、私のすぐ真横から爆発が発生、その影響により、グリードウーマンに固定されていた腕が不穏な音を立てる。


「ヒ、ヒャハハ! 当たった! 当たったぜ! これで左腕は使えない!」


 そこにいたのは、犯罪者のうちの1人。確か、爆発系のスキルの使い手だったはずだ。


「ぐうう……」


 これではもう接近戦で勝てない。中遠距離で戦うしか道はなくなった。


「……なんだ。それじゃあもうおいしくないわね。生焼けだわ」


 悔しいが、その通りだ。中遠距離で戦うとは言ったが、私の攻撃を吸い上げ、パワーアップしたグリードウーマンに、まだまだいる犯罪者たち。とてもじゃないが、勝てると思えない。


 ただ、天はまだ私を見捨てていなかった。


「ごめんなさい! 黒のポーン、青葉里美到着しました!」


「黒のナイト、如月紫音来た……状況は悪そうだね」


「ごめんみんな……手を貸して」


 少し前から、風がこちらにやってくるのを察知していたのだ。


 よし、なんとか持ち堪えれた。これでまだ勝負は分からない。


「あら? ここにきてお客様とは……どんな料理になるかしら……ねぇ、シュルカー?」


「……きっと」


 まだ……わからないはず。


「うまそうなきつね色になってくれるさ」


「まぁ素敵」


 まだ……まだ。


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